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隆太の体にしがみつくように抱きついて、涙をその肩で拭う。
「…隆太以上に好きになれる人なんてできない。でも…私は隆太に似合うようなお嬢様なんかじゃない」
「俺、別にお坊ちゃんでもないけど。…それ、俺が千香にフラれ続けた理由?」
こくんと頷くと隆太の手が私の頭にふれて、頭皮マッサージなのかツボ押しなのかわからない、痛いくらいの強さで頭をうにうに掴む。
「もっと違う理由出せ。そんなの納得できない」
「…隆太の勉強の邪魔になったり…、女の子に嫌われたくなかったり…」
「……まだ納得できない。いっそのこと、俺が嫌いだって言えばいいだろ?俺がおまえに向けた気持ち、全部踏み潰してきたのはおまえだ」
言われるとかなり落ち込んだ。
嫌いじゃない…なんて伝わる気がしない私の態度だったと思う。
それでも…。
「好き。……好き。好き」
なんて、ひたすらそればかり言ってやった。
いっぱい言えば、どれか一つでも本当の気持ちとして受け取ってもらえるかもしれない。
今まで言えなかったぶん、ひたすら繰り返す。
「大好き。…好き。…好き。…大好き」
「恥ずかしいからもうやめる気ない?」
「やめない。好き。…好きだって言ってるでしょっ」
「逆ギレで言うなっ」
「だって好き。何度も言ってるのに、うんって一度も言ってくれないっ」
「…かなり恥ずかしくなってるだけ。……好き?俺のこと」
「…大好き」
思いきり思いきり感情込めて言った。
隆太の手は私の背中を両手で強く抱いて、私の頭に頭を軽くぶつける。
「おまえ以上に俺にとってかわいい女はいない」
「紫苑の元カノは?」
聞いてみると隆太はなぜか咳き込んだ。
「……どれのこと?」
っていうくらい、紫苑の元カノに思い当たるものが多いらしい。
隆太の口説き文句が軽いもののように聞こえるのは仕方がないと思う。
不満だけど。
私の好きの言葉も軽く聞こえたら、それはそれで仕方がない。
隆太を何度も振ったのは確かに私だ。
「…隆太がえっちした相手」
それでもムカつくから、カマかけるように言ってあげた。
隣の住人以外にいたとしたら、ただの女好き扱いでいいと思う。
紫苑の元カノに手を出すとか、紫苑の彼女に手を出すとか。
私が紫苑といたらいけない理由が別にあるんじゃないかと隆太を疑うから。
…疑って…嫌いになるわけでもないんだけど。
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