Story

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何度も逃げようと思った。 私が彼のそばにいるには、あまりにも場違いだと思うから。 彼は高校の頃からモテるほうだった。 今もモテているようで、片腕を私の肩にかけたまま、仲間らしい女の子に声をかけられて話している。 酔っ払いにはわからないのかもしれない。 その女の子の視線がきつく私を睨み付けていることを。 …逃げよう。 飲み代奢ってもらったけど、無理矢理で。 私は口もつけていない。 私はそろっと彼の腕にふれて、私の肩から離れさせようとして。 彼はさっきよりも強く私を抱き寄せた。 私の鼓動はびくびくかどきどきか。 自分でもわからない。 とにかく男に肩を抱かれるなんてされたことはないっ。 「お手洗いいきたい」 私は彼に言った。 嘘だけど。 そのまま逃げるつもりだけど。 彼の視線は私を見て、話していた子に軽く手を振って立ち上がる。 何かと思えば私をトイレに連れていく。 …男にトイレは付き添われたくないと思う。 というか逃げられない。 とりあえず一先ず離れるためにトイレの個室には入ってしまおうとした。 彼は何を考えているのか、私と一緒に個室に入ってこようとして。 「待ってっ。トイレは一人でするものでしょっ?酔っていてもわかるよねっ?」 私は焦って声をかける。 彼は私を見下ろし、私は彼を見上げる。 「……誘ったんじゃないのか?」 「なにをっ?」 「イチャイチャ」 彼は私の体をトイレの個室の壁に押しつけて、その顔を私の顔に近づけてくる。 頭が真っ白になりそうだ。 何を考えていいのかわからない。 キスしてこようとするから、私は彼の口を手のひらで被った。 私の鼓動はびくびくなのかどきどきなのか。 なぜ私はこの人のこんなに近くにいるのか。 まわりを見ても私のような人はいない。 彼のそばにいるのは派手めなギャルばかりだ。 なのになぜ私に違和感がない? 彼はその目を閉じて私の手のひらにキスをしまくる。 手のひらを舐められて、軽く噛まれた。 彼の手は私の腰にふれて、お尻へおりていく。 私の鼓動はびくびくなのか、どきどきなのか。 私はキスなんてしたこともない。 男にこんなふうに体をさわられたこともない。
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