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少し薄着をしてしまったかもしれない。
12月の風が冷たくて寒い。
街はクリスマスムード満載で、楽しそうに笑いあい、肩を寄せあって歩くカップルに目を止め、私は溜め息をつくように指先に息を吹きかける。
待ち合わせ。
お相手は…晃佑でもなければ、新しい彼氏なんてものがいるはずもなく。
色気も何もない高校の頃の女友達。
「スギがつきあっていたのも知らなかった。しかもその相手が紫苑だとは。すごく意外」
たまには食べにいこうと誘われてのイタリアンレストランで、千香は煙草を片手に私に言う。
本物のチカちゃんである。
私は知花と書いてトモカだ。
そして私は杉浦のスギがあだ名だったりする。
ファーストネームではあまり呼ばれない。
千香は私の女友達の中では、派手なほうなのかもしれない。
恋愛経験の少ない女友達ばかりの中で、千香は私には経験豊富のように思える。
見た目は…別に派手でもない。
メイクもナチュラル、服もOLお姉さんって感じのシンプルなオフィスカジュアル。
派遣OLをしている。
20才。
私のように進学した者もいれば、晃佑や千香のように働いている人もいる。
「私も意外。紫苑くんとつきあっていたなんて」
高校の頃の私を考えると、紫苑くんを晃佑と呼ぶのが当たり前のような関係も意外。
接点はまったくない。
見ていただけ。
……見ていたこと、晃佑に気がつかれていたみたいだけど。
…かっこいいなと思う人を見ているくらいいいじゃないか。
なんて、ちょっと恥ずかしくなって自分に言い訳してみる。
「スギにとって初めてつきあった人になるんだよね?どうだった?」
千香はどこか恋愛の先輩のように、私を冷やかすかのように聞いてくれる。
「…まだ…、区切れていないから、そんなふうに聞かないで」
「相手は紫苑なのに?本気だったんだ?」
「紫苑なのにってなに?…晃佑、やっぱり軽そう?……軽い…のかな」
私はフラれた理由を思い出して。
どうしても軽いと思えなかった。
つきあおうって言われたその言葉は…確かに軽かったけど。
終わりは軽くない。
……いや、軽いかも。
私とまだつきあっていたのに、他の女の子と手を繋いで歩いていた。
それで私にああいうこと言うなんて、自分勝手の身勝手だ。
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