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「隆太は…私のものなんかじゃないから。私に謝らなくていいよ」
少し躊躇ったあと、言ってみると、ミクは不満そうに顔を上げた。
「千香さん冷たいです。リュウちゃんは千香さんのことに対して熱しまくりなのに。その温度差はだめですよ」
なんかダメ出しされた。
温度差あるつもりでもないのだけど。
紫苑がくることを気に留めなかったりは温度差かもしれない。
「でも冷めてるわけじゃないからねっ?」
「だったら他の女はふれんなくらいの気持ちでいてください。千香さんがそんなのだったら、あたし、リュウちゃんにべったりしちゃいますから」
「…いや。隆太にくっつかないで。紫苑もだめ。紫苑は友達の彼氏だから」
「あ。あの美人のお姉さん、千香さんの友達なんだ?思いきり睨まれたことあるから、いないとこでしかくっつきません」
「いないとこでもだめっ」
「……くっつくだけでとるなんて言ってないのに」
「ミクならとられちゃいそうだからいやなのっ」
「……コウちゃんとリュウちゃんは無理です。くっついたら、引き剥がされちゃうから。他の男のほうが簡単。…でも簡単なのもおもしろくないんですよね。本気って言える相手が欲しいです。…千香さんはリュウちゃんに本気?」
「…本気」
答えると、ミクはそれでいいかのように笑ってくれた。
部屋に入ろうと扉を開けようとする背中を引き留めるように声をかけた。
「ねぇ?恨みがあるなら殴ってもいいよ?」
ミクは私を振り返る。
「……千香さん、馬鹿ですよね」
なんて言われて、ストレートすぎる言葉に落ち込みそうになる。
「あたし、暴力は嫌いなんです。千香さんに仕返しするなら、千香さんを叩くより、リュウちゃんを監禁でもします。そんなことしても虚しいだけだけど。叩いても同じでしょ?それに、そこまでの気持ちももうないです。
……そうだ。あたし、しばらく今の彼氏の家に住み込むので、留守の間、お願いしますね。隣人さんとして」
ミクはにっこり笑って、部屋の中へと入っていく。
紫苑と隆太から聞いた前評価がよくわかったような気がする。
強がったりもするけど、強い。
伏せた目を開けて、前を見て。
傷つけた人のことを考えても、気を取り直して。
自分だって傷ついてるはずなのに。
前を見て歩く。
自分のことばかり…になっても、前を向けるなら…たぶん、かっこよく生きられる。
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