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「今見ても卒アルの中でも目立ってる。どっちもかわいい。あんなに狙われまくっていたのに、知花が誰ともつきあったことないとは思わなかった」
「苦しいので手を…」
離してと言おうとしたのに、紫苑はさっきの仕返しのつもりか、鼻も摘まんでくれて、私は本気で暴れる。
紫苑が手をはなしてくれると思いきり呼吸をする。
し、死ぬかと思った…。
けっこうサディストだ。
「……知花がいないときのいい暇潰し場所だったのに、今日が最後だな。…よかったって言ってやりたいとこだけど、つまらなくも思ったり」
「……なーに?浮気?」
「半分」
「全部にしてくれたら、紫苑を彼氏にしたのに」
「思ってもいないくせに」
まぁね。
スギから奪うつもりなんかない。
それでもいいなと思ったことはある。
何度もある。
奪うつもりはなくても、奪えたらいいのになと思ったことはある。
それは紫苑が悪いということにしておこう。
なんて思いながら紫苑を見ると、紫苑は卒アルを見ていた。
懐かしそうに目を細めて楽しそうに見ている。
少し服を引っ張ると紫苑は顔を上げて私のほうを見て、私は紫苑の唇に唇を当てた。
唇をはなして、ゆっくりと目を開けて紫苑の顔を見ると、驚いたような顔を見せていた。
「…ごめん。衝動的?だったっけ?」
「……もう一回。ゆっくり。目を閉じるの忘れてた」
「そこに彼氏がいるのでいやです」
「大丈夫。あれ、一度寝るとなかなか起きないから」
「狸寝入りだったら?」
「こんな会話をしていたら飛び起きて止めにくる」
そうだろうなと思う。
止めてくれない隆太はいないと思う。
でもしない。
紫苑がそっちモードになるのは困る。
「…それでもだめ。……浮気心をつけさせないで」
「……半分だけちょうだい」
「だめ」
「だめって言葉が好きなのかも…」
もう一回だめって言ってあげようとしたら、紫苑の手が顎にふれて。
求めたような目を一瞬見せて目を閉じて、唇、重ねられてしまった。
ゆっくり、キス。
突き放す手を持てずに、そのままふらりと後ろに倒れそうになると、紫苑の腕が支えて、その腕に寄りかかる。
頭の中、麻痺。
自分の手がどこにあるのかもわからない。
声がこぼれてしまっているのかもわからない。
体にふれる暖かい手のひらはわかる。
隆太に見つかったら殺されそうだ。
殺したくなるくらい嫉妬されたい…なんて思ったりもする。
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