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「…私も加藤くんにドキドキさせられたことあるから…」
何も言わないでいるとスギはそんなふうに答えた。
…手を出しかけた女はここにいるんじゃないかと隆太を思って、微妙にムカつく。
スギにじゃなくて隆太に。
スギが私みたいに流されてしまう子なのかはわからないけど、スギから隆太に手を出したとは考えにくい。
けど…、そんなふうに彼氏の行動にやきもきしたりするのは、なんだか久しぶりだと思う。
「暴露大会しちゃう?」
「…聞きたくないかも。晃佑、だって、誰とでもキスできちゃうってつきあう前からわかってたようなものだし。その相手が千香って…、どこかお似合いにも思う」
「それってつまり、私も紫苑みたいなタラシに見えるって言いたいのかな?ん?知花ちゃん?」
「言ってないっ。千香、怒らないでっ。…恋愛経験豊富そうって思うだけ」
豊富かもしれないけど、紫苑と同じにされるのは心外だ。
紫苑ほどじゃない。
ないけど、スギほど純情とも言い難い。
紫苑とスギは本当に予想外のカップルだ。
どうやったらつきあうことになるのか謎。
それでも…好きな気持ちがなければ始まることもないと思う。
喫茶店を出て、ご飯を食べにいって、なんとなく軽いノリで隆太のバイト先へ二人でいってみた。
店内は忙しそうで人見店長がカウンターに立って、隆太が飲み物を運んでいる。
ウェイター隆太も手慣れた感じがしていいかもと思う。
ビリヤードができるわけでもないけど、ビリヤードしにきた。
でも台はあいていなくて、カウンター席に座って飲ませてもらう。
「コウの彼女と隆太の彼女、だな。コウも呼んでやればいいのに」
人見店長はスギもよく知っているようで、そんなことを言いながら、注文したカクテルを作ってくれる。
「晃佑、職場の人に誘われて飲みにいくって言っていたので」
「無理矢理引っ張られていったんだろ。呼んでやろう」
人見店長は携帯を手にして電話をかけて、私とスギは顔を見合わせる。
微妙かもしれない。
スギの前で紫苑にどういう顔を見せるべきかわからない。
紫苑がどういう顔を見せるのかわからない。
「千香、あがりまで待ってて。送るから。トモちゃんも送ってあげる」
各テーブルまで配達にいっていた隆太は戻ってくると、私とスギにそんな声をかけてくる。
スギに対して甘いと思ったのはきっと気のせいじゃない。
隆太は私には口が悪くなるらしい。
少しムカつく。
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