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酔えば正直になるって、ある意味うらやましいかもしれない。
肉欲的なものばかり求めた言葉を吐かれて、とてもうれしくはないけど、スギにはうらやむことらしい。
ビリヤード台があいて、紫苑がビリヤードしにいくと、ふて腐れながらスギは言う。
「千香のことすごく気に入ってるの、なんとなくわかっていたんだけど。私の魅力はなに?ってひたすら問い詰めたくなった」
「肉欲が魅力はうれしくないってば。誉められてない」
それって体に飽きたら終わりってなりそうだ。
一緒にいると落ち着くからって言われるほうが私はうれしい。
紫苑が彼氏じゃなくてよかったと思う。
隆太に肉欲と言われたら…スギが紫苑にしたみたいに殴るかもしれない。
…体も。
いつかそう言ってくれたことがある。
今はどうなんだろう?
隆太をちらっと見ると、ビリヤード初心者みたいなお客様にビリヤードを教えていて。
女の子との距離が近くて少し妬ける。
紫苑の膝に抱き上げられた私に、スギの嫉妬はかなりあっただろうと予測する。
「…でも…。千香、晃佑にどんなこと言うの?教えて」
スギはそんなこと言ってくれて、私は口にしかけたお酒を吹きそうになった。
とても言えない。
「それ、私の性格なだけ。スギはスギのままでいたほうが魅力的だと思うよ」
「どうやってかわすの?」
「……だめ。だけ」
たぶん、きっと強い抵抗でもなくて、やんわりと逃げようとすることかと思われる。
今度は蹴りあげよう。
紫苑にはそのほうがいいんだ。うん。
気に入られてもスギに不安を与えるだけ。
「いや、は?」
「だめって言葉が好きらしいよ?」
「……千香のほうが晃佑のこと知っていそうなところが複雑」
「そうでもないと思う」
ただ、それでもなんとなく思うのは、スギが言った優しすぎる人。
淋しがり屋。
だけど…、ビリヤードをしている姿は、たまには一人で自分の世界に入ってしまいたがる人。
面倒見がいい人かもしれない。
甘えた気持ちをわかってくれる人。
頼られてくれる人。
そんなふうに紫苑を思う。
だけど、隆太はどんな人?って言われても、うまく答えられない。
好きな人のことほど、よくわからなくなってくるような気がする。
好きだから…、わからない。
なにが好きなのかも…わからない。
一緒にいたい人。
紫苑の答えがよくわかる気がする。
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