Change one's mind

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本気で疲れた。 何回謝ったかわからない。 ヘッドマイクをはずしてパソコンのデータ処理をして、さっさと帰る支度をして席を立つ。 残業つけてくれるらしくて、社員から紙を渡されて記入。 「もう8時か…。お疲れ様。飲みにいく?」 「…平野さんとですか?」 頷かれて迷う。 何年一緒に働いているのか、初めて誘われた。 というかこの社員がプライベートな話をしているのを見たことがない。 断っていいことなのかわからない。 「いやならいいけど。奢るつもりだったのに」 答えなかったらそういうことにされた。 私の書いた紙を派遣元へファックスしてくれて、社員の仕事も終了。 「すみません」 なんてまた謝りながら、社員とオフィスを出て、社員が鍵をかけるのを待って。 「嫌だって思った?話したこともないような相手と飲みにいくなんてって思った?」 「…いえ。いいのかなぁと思っただけです」 「こっちが誘ったのに?下心ありに思われた?」 「彼女いるんですか?」 「いません。先月別れた。…腹減った。焼肉食べたい。一人でいくのか?なんて思って誘ってた。それだけ」 それだけ?本当に? 疑う気持ちはありつつも、お腹が鳴る。 疲れたし、帰って作る元気もない。 明日は休みだし、飲んで今日のストレス発散したいと思う。 メールを見なくても、どうせ隆太はバイトだ。 見て、またかと溜め息をつくほうがいや。 エレベーターに乗って、社員と二人の束の間の密室空間。 「…焼肉食べたいです。平野さんの奢りで」 「予算オーバーしたら貸してね」 ということで、飲みにいくことになった。 デートのつもりはないけど、なぜか上司とも言える社員と二人で焼肉。 なぜか普通に話してる。 愚痴ったものを聞いてもらって、愚痴を言ってもらって。 初めてこの人の素の笑顔というものを見せてもらった。 かわいい。 年上だけどかわいい笑顔をする人だなと思う。 食べて飲んで、いろんな鬱憤吐き出して楽しんでいたところに、鞄の中で携帯が震えていることに気がついた。 お手洗いと断って席をたって、トイレで携帯を見てみると、隆太からだった。 いつも同じと決めつけていたのに、今日に限って休みで。 私の返事がないことに心配したメールや着信。 溜め息をつきたくなる。 ごめんって謝っても、きっとまた怒られる。
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