Change one's mind

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冷めてるわけじゃない…けど、逃げてしまうんだろう。 だから携帯を見ることもなかった。 溜め息つきたくないって…それだけで逃げた。 自己嫌悪して、携帯を手にしたまま、しばらく何もできずに、溜め息がこぼれる。 怒られるのを覚悟で隆太に電話をした。 『千香、今どこ?メール見た?』 うれしそうな安心したような声が聞こえる。 罪悪感とうれしさと。 このあとの怒られる言葉を考えて泣きたくなる。 「うん…。ごめん、今気がついた。職場の人と飲みにきてる」 『飲んでたのか。帰り、メールか電話くれたら迎えにいく。明日、休みだよな?…一緒にいたい』 怒らなかった。 相手が男一人って聞いたら怒るかも。 言えそうにない。 一緒にいたいのは私のほうだ。 こんなことくらいでうれしくて泣きそうになってる私、単純だ。 またメールか電話するって言って電話を切って、目の端に浮いた涙を拭って。 社員のところへ戻る。 「長いお手洗い。電話でもしてた?」 「…ごめんなさい」 「電話なら電話って言って離れてくれていいよ。そろそろ帰る?」 どんな相手と電話していたのかわかっている言葉のように思えた。 電話に気をとられるならもういいって突き放した感じじゃない。 「…平野さんってモテますよね。きっと」 「そうでもないよ。見た目、こんな平凡だし。職場に女性しかいないだけ」 「笑顔、かわいいですよ?」 言ったら、社員は照れたような苦笑いを見せた。 営業スマイルはどこか気取って見えて好きじゃなかったけど、素の笑顔は好き。 「…千円貸してもらおうかな」 まだ精算してない。 足りないわけじゃなくて、それって…。 「私、彼氏います」 「貸してって話しかしてないよ?また飲みにいくくらいいいんじゃない?同僚として」 「平野さんは上司で年上です。……また愚痴ってもいいですか?」 「職場から離れたプライベートでなら。職場の全員の愚痴を聞かされるようになるのは勘弁してほしい。暇なとき誘って」 社員は携帯番号をコースターの裏に書いて差し出してくれて。 私はそれを受け取った。 なんだか特別扱い。 喜んでしまうのはいけないことだろうか? かわいがられたい。 彼氏以外の人に思ってはいけないのかもしれない。 それでもかわいがられるとうれしくなる。
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