584人が本棚に入れています
本棚に追加
/606ページ
隆太は何も答えずコーヒーに口をつけて、ふぅと息をつく。
嫌いなのだろう。
親に甘えていれば、雇ってもらおうとするはずだ。
じーっと隆太を見ながら、コーヒーをいただく。
お手伝いもせずにお客様になってしまったなとコーヒーに視線を移して思う。
隆太のやり方だと、私の家にきたとき、お手伝いしてもらえないことになる。
平等。
「千香は?年末、実家帰る?」
平等に隆太は聞いた。
黙秘してもいいらしい。
でも、言わないままでいられない。
いつかはすべて聞いてもらいたいと思っていたこと。
誰にも話したこともないし、どこからどう話すものか迷った。
「…実家って呼べるような家はないの。年末年始を一緒にって言って待ってる人はいない。お父さんは再婚したらしいし、お母さんは……死んじゃった」
「…千香の家の事情、聞いたことなかったな。ごめん。言いたくないことなら、もう言わなくていいから」
「…聞いて欲しいって思う。すべて聞いて、私を知っても…」
別れ話はしないって言ってほしい。
そう続けようとしたけど、それは違うなと思った。
願う言葉は言わないほうがいい。
隆太は叶えてくれそうだから。
意思に反しても。
「…じゃあ、聞く。いつお母さん亡くなった?」
「高校卒業してから。…自殺した。隆太と高校でつきあっていた頃から、お父さんは帰って来なくなってたの。姉がいるけど、姉も家を出てた。お母さんと二人暮らし。だから遅く帰っても放置でほとんど何も言われない。言われないけど、たまに理由なく殴られた。病んでた。お母さんが病んでるのわかっていて、私は何もせずに父や姉のように逃げていた。山瀬とつきあっているとき、山瀬の家に何度も泊めてもらって、ほとんど家出。高校を出ても家にあまり帰らなかった。お母さんには…私しかいなかったのに。…手を差し出したりしなかった。自分の親なのに…、一緒に住んでいたの私しかいなかったのに…、お母さんが死んで3日も過ぎてから気がついた」
そこまで一気に話して、胸は痛くなるけど、落ち着いて話せてると思った。
言葉にできない感情もある。
でも話せてる。
隆太だから話せる。
最初のコメントを投稿しよう!