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憧れ、羨むこと。
尊敬し、慕うこと。
欠片もない相手に惚れたりしない気がする。
私とは境遇がまったく違う、深くつきあえば価値観もきっと違う、似合わない人。
わかっていても、その違いに魅力があるのだろう。
その違いに喧嘩もするだろうし、わかりあえないこともあるだろう。
それでも小さくても重なる部分に心は安らぎ、楽しいと思ったり、うれしいと思うのだろう。
…結婚、なんて…こわくてできないけど、隆太が私との違いに嫌気がさすまで…。
それまででいいから、つきあっていてと望む。
「…あ。あけおめ」
「明けましておめでとうございます。本年も何卒宜しくお願い申しあげます。…帰り際、お母さんにお年玉押しつけられてもらっちゃったんだけど、どうしよう?」
「……賽銭箱にそのまま投げ込んだら?」
「分厚いからしたくない。…旅行いく?一泊でも」
「金に釣られてんな」
微妙にぴきっときたけど、堪えた。
溺愛されて育った苦労知らずのお坊ちゃんは、愛もお金も必要ないとでも言いそうだ。
私に合わせろとは言わないけど。
ムカつくものはムカつくっ。
…結局は嫉妬。
私にないから憧れ、羨み、嫉妬する。
「じゃあ、隆太がお父さん以上に稼いで、私に贅沢させてよ。そしたら貰ったお年玉くらいって全部賽銭箱に入れる」
「俺はまだ学生。千香以上に収入はない」
「学校出たら稼げるの?司法試験受かってもいないのに?」
「……疲れたから、もうなんにも考えたくない」
「意地になってるから疲れるんでしょ。隆太は甘えていいって態度の親をはね除けて自分から疲れるほうへ歩いているだけ」
「…新年早々説教いらない」
なんて言うくせに、抱っこって甘えてくる。
おとなしく抱きしめられてあげると、隆太は私の肩の上で息をつく。
少し落ち着いて、キスしようとしてきて、私はそのキスを止めた。
「……キス、しよ?家帰ったらベッド」
「初詣、このままいこうか?」
「わざとだろっ。疲れたって言ってるのに、これから人混みいけって?」
「…隆太は私の言葉になんにも応えてくれない。体だけ?なら、私じゃない子と一緒にいたほうが楽なんじゃない?」
「なにそれ?脅し?実家連れてっただろっ?」
「隆太が親に甘えているのはよくわかった。ありがとう」
「…はね除けてるって、さっき言ったくせにっ」
「そういう甘えでしょ?親の気をそんなに引きたいの?」
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