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「…ごめん。ちゃんと送るから帰ろう?」
隆太が謝ってくれたりするから、また自分が嫌になって泣けた。
「嫌になったなら…、手を離してくれていいの。私しか隆太につきあえないわけじゃない。我慢して、妥協してるのは隆太でしょ?
…もしも私とのつきあいに、ただ楽しいだけの遊びを求めているのなら、私はそんなふうになれない。また隆太にとって嫌なことを口にするかもしれない。
私はわがままだし、隆太のことが好きでも、隆太の理想にはなれそうにない」
だから……。
言おうと思っても、思い通りに自分を操れない。
それでも好きなのって言いたくなる。
言ってあげるべき言葉は…、だから……私の手を離していい。
他に隆太に似合う女の子ならいくらでもいるだろうから。
隆太を好きになる女の子なんていくらでもいるだろうから。
私に合わせろなんて言わない。
今までの仕返しのように私を置き去りに消えてしまっていい。
……言えないの。
心の中、ずっと私を思ってくれている人でいてほしいと、わがままに願うから。
フラれたくないと願うから。
だけど…、それでも…、隆太のことを本当に考えるなら、私とつきあっていても楽しくもないだろうから。
隆太がくれる決断を受け止めなきゃいけない。
「……家、送る…から」
私は隆太の言葉に頭を横に振った。
きっかけは些細なこと。
嫌になった…と言われたこと。
本気で嫌になったんでしょ?
追いかけてくれなくていいの。
隆太に追いかけてもらえるような女じゃない。
自分のことくらい、よくわかってるよ。
外見しか取り柄ないのかもね、私。
ぽたぽたと足元に黒く染みを残すものを見ていた。
「……この手を離したら…後悔する。きっと」
「…大丈夫。新しい彼女、隆太ならすぐにできるから。初恋みたいなものに、お互い縛られてしまってるだけ」
「……千香」
「大丈夫。……行くなら早く行って」
私の腕を掴んでいた隆太の手が離れた。
見えていた足が歩き出す。
顔をあげると背中が見えた。
遊びなら…、友達という気持ちで終われたなら…よかったのに。
涙、止められなかった。
体、ふらついて、壁に寄りかかってしゃがみこんだ。
新年からなにやってるんだろ?私。
そんな新しい1年の始まり。
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