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入院は音のない世界で誰かが動いているのを見ているだけ。 歩けるようになって、自分の足音も聞こえなくて、ここに自分が本当に生きているのかもわからなくなった。 たまに姉が着替えを持ってくる。 どうやって病院にきたのか聞いてみた。 隣人のミクが戻っていて、水がずっと出しっぱなしの音が気になって、管理人に電話してくれて、私が倒れているのを見つけたらしい。 『自殺しているのかと思ったって言ってた』と姉の筆談。 …自殺行為だろう。 まちがってないとミクに言ってあげたい。 『友達きてくれてる?』 なんて聞かれて、 『誰にも連絡していない。携帯さわってない』 って返事をしたら、携帯を握らされた。 『彼氏が心配しているんじゃない?』 なんて書くから、 『彼氏なんていない。職場に事情の説明と退職だけお願いしていい?』 と書いた。 『もうやった。休職扱いにしてもらっている』 我が姉ながら、素早い行動だ。 『ありがとう』 書いて姉の顔を見ると、照れたように少し笑って、手を振って歩いていく。 筆談なんて紙の無駄遣いとも思える。 それでも…、少しだけ、病気のおかげで自分の家族と接している気がする。 携帯を見て、確かあの時、電話あったはずって思いながら着信履歴を見る。 職場からの無断欠勤についての問い合わせ電話で埋まっていて、着信履歴に残っていなかった。 少しだけ、隆太かなと期待してしまっていた自分に溜め息をつく。 メールの受信ボックスを見ても隆太の名前はない。 いろんな人からあけおめのメールばかりが入っているだけ。 メールは普通にできるから、もう三が日も気がつくと過ぎていたけど、返事をしておく。 スギや紫苑も。 あけおめだけ。 ミクはメアドなんて知らない。 知っていたら、ありがとうくらい入れておきたいところだけど。 1月も半ばが過ぎて、肺炎のほうもだいぶよくなって、病院を抜け出して煙草を吸う。 院内禁煙なんてしてくれるから、パジャマで院外に出なきゃいけない。 いや、その前に吸うのも院外に出るのも本当はだめなんだけど、気にしてあげない。 息が苦しくなったけど吸えた。 吸えたけど2口でやめた。 煙草を吸うと隆太が恋しくなることに気がついた。 フラれたのは私だ。 仕向けたのも私かもしれないけど。 もう…私は鳥籠から出された。
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