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横断歩道がまた青になって、私を見ながら人が歩いていく。 立ち上がろうって何度もするのに、足に力が入らない。 恥ずかしいのもあるけど、こわくて。 這ってでも動こうとできなくて。 人が通りすぎるたびに感じる風だけ感じていた。 そんな私の体をいきなり抱き上げた腕。 鼻先に感じたよく知っているにおい。 顔を上げなくてもわかった。 車の助手席に私は降ろされて、私を運んでくれた人は運転席にまわって車を出す。 痛い。 胸が。 呼吸、できなくなりそう。 ひたすらうつ向いていた。 私の頬にふれる手に顔をあげると、隆太が私を見ている。 その唇が動いて、千香って名前を呼んでくれている。 どうした?って聞いてる。 置いていったのなら、私を気にしてくれなくていいのに。 変なところで見かけても、私を助けてくれなくていいのに。 また振り回してる? 声を出そうとしたのに、唇は音を刻まなかったらしい。 隆太がその唇を見せてくれなかったら、どんなこと言っているのか想像もつかない。 隆太は私から離れて顔を逸らして。 ちゃんとしたさよならを言葉にしてくれているとしても聞こえない。 表情も見えない。 怒ってるかも。 なんにも答えられないから。 携帯を取り出して、メール作成画面に文字を入れて、それを隆太の顔の前に出した。 『ごめん。何も聞こえない。助けてくれてありがとう』 それだけ。 隆太は私のほうを見て、その唇が本当に?って動いて、私は頷いた。 何か聞かれているみたいだけど、簡単なものじゃないとわからない。 車の外を見て、家の前まで送ってくれたらしいことに気がつく。 車を降りようとすると、隆太の手が私を引き留めるように、私の腕を掴む。 ジェスチャーでちょっと待ってってされた。 携帯を取り出して、私と同じように文字を入れる。 『いつから?一人で暮らしてるまま?仕事は?』 『先月。仕事やめた。一人暮らしのまま』 返事をうって隆太に見せると、隆太はとまどった顔を見せて、何か文字を打とうとする。 『世話かけてごめんね。ありがとう』 私は隆太より先にそれを打って隆太に見せる。 『飯、ちゃんと食べてる?痩せただろ?』 なんて書かれて、持っていたはずのご飯を思い出した。 車の中を見回すと後部座席に乗っていて、それを手にする。 せっかく買ったシュークリームが潰れている。 ご飯もぐちゃぐちゃだ。
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