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それでもご飯は仕入れた。
スーパーのほうが近いし、今度からはそっちにいこう。
コンビニ袋を隆太に見せて、心配しないでと笑ってみせて、車を降りる。
大丈夫って顔を見せていたかった。
これ以上嫌われるようなことにはなりたくないし、一緒にいると甘えてしまいそう。
1階のホールを歩いて階段に向かっていると肩を掴まれて、振り返ると隆太がいて。
私の手に隆太の携帯を押し当ててくる。
携帯を受け取って画面を見てみた。
『1ヶ月、ずっと千香に連絡するの我慢してみたけど、どんなに嫌だって思っても、おまえが初恋を引きずっているだけだって言っても、俺が手を離したってわかっていても、会いたかった。
俺は大丈夫なんかじゃない。千香も大丈夫じゃない。もう一回、好きって言って。俺に呆れたんじゃないなら、もう一回つきあって』
音も聞こえない私を喜ばせてどうするのか。
隆太は私の手から携帯をとると、また文字を入れていく。
『俺がそばにいる。おまえの耳になる。一生。
いつかまたおまえを傷つけることを言うかもしれない。いつかまた手を離すようなことをするかもしれない。その時はそれでいいと受け止めないで、おまえも俺を捕まえていようって思って欲しい。おまえが本当に納得するまで俺を離さないで。俺はきっとまたおまえに会いたくなる。
おまえがいなくなったら俺が泣く』
思わず泣きそうになりながら文字を入れて返事をした。
『なにこれ?プロポーズみたい』
『プロポーズ』
『泣くの?』
『泣いた。何度も。今回泣いた証人にコウがいるから聞いてみれば?』
私が…いなくなることで泣いてくれる人がいるのなら、そこに自分の価値を感じられるかもしれない。
私は私のために生きていくことはできない。
誰かのために、あなたのために生きるなら、生きていけそうだ。
その気持ちを忘れた時には、もう一回言ってって言わなきゃ。
『もう一回プロポーズして。口に出して』
『聞こえないんだろ?』
うんうんと頷いたけど、隆太は私をまっすぐに見る。
その唇が動くのを見ていた。
記憶の中の隆太の声が聞こえる。
さっきと違うこと言ってる。
聞こえないけど、聞こえる。
一生一緒に生きていこう?愛してる。
……妄想だ。きっと。
でも唇にふれた隆太の唇は妄想じゃない。
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