Ceaseless happiness and sadness

4/15
前へ
/606ページ
次へ
2月の終わり、隆太と一緒にご飯を作っていたら、突然、父がきた。 私はインターホンが鳴ったのもわからないし、すごく突然に思ったけど、メールは送られていたらしい。 隆太がいるときは私が携帯を手放しているのが悪い。 隆太が玄関に向かったから何かなと思って、後ろから顔を覗かせるとお父さんだったということだ。 初めてお父さんがきたような気がする。 まったく私のことなんて気にかけていないのだと思っていたら、そうでもなかったようで。 部屋にあがってもらって話を聞いてみると、一緒に暮らさないかという話だった。 お父さんの字は少し達筆で読みにくい。 『奥さんいるよね?子供もできたんじゃないの?』 ホワイトボードに書いて見せると、お父さんはいつも隆太が使っているホワイトボードに書いて、私と会話してくれる。 『千香の戸籍は私の娘だから千香の母親になる人はいる。子供は千香と瑠香の二人だけ』 そういえばそうだなと思う。 会ったことも見たこともない新しいお母さんが私にはいる。 お父さんは家に帰っていなかったけど、お母さんと離婚はしていなかった。 死別。 私と姉はお父さんの戸籍。 お父さんが再婚したらその相手はお母さんだ。 ホワイトボードに書こうとしていたら、隆太がお父さんと何か会話をしている。 聞こえない耳はその会話を聞き取れないけど、二人の唇が動いている。 ゆっくり話してくれたら、単語くらい唇で読めるようにはなったけど、早く話していたらわからない。 『一緒に暮らしてくれている人がいるから大丈夫』 書いて、お父さんに見せると、お父さんは頷いた。 隆太とまた何か話して、携帯番号を交換して、またくるって私に文字を残して帰っていった。 もしも話せたのなら、きっと私は憎まれ口を叩いていただろう。 今更なに言ってるの?って。 でも話せないから気にかけてくれた。 きっとお父さんの相手の人に了承をもらって、いつでも大丈夫って状態にしてからきてくれたのだろう。 お父さんが帰ると、さっきの続きのように料理を作る。 隆太に肩を叩かれて顔をあげると、 『千香と結婚したいって言った』 なんて書いてあって、かなり焦った。 『千香の耳が聞こえるようになるまでダメっていうようなこと言われたけど諦めてやらない』 隆太は表情をつくって強気な顔を見せて、私が呆然とすると、からかったような笑顔を見せる。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加