Ceaseless happiness and sadness

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3月になると、隆太は深夜から朝までという時間帯のバイトをやめた。 人見店長にまで迷惑かけている気がしないでもないけど、新しい深夜帯だけのフリーターが入ったからやめたと隆太は言ってた。 そして、2ヶ月も過ぎてから、高校の友人、スギに耳が聞こえないことがバレた。 隆太と暮らしてるってメールで報告したら遊びにいっていい?という話になって。 だめだめ言いまくってあげたのに、勝手にきてバレてしまった。 スギは医者の卵。 なんかカウンセリングのときにやられるような、簡単な検査みたいなことをされて、まったく聞こえていないことを把握される。 うれしくない。 『もっと早く教えてくれていればよかったのに』 書きながらスギは唇を動かして声に出す。 スギの声が頭の中で再生されているような気がする。 『これからは千香のカウンセリングに定期的に寄らせてもらうから覚悟して』 『私はモルモット?医師免許ないのにカウンセリング?』 『千香ってハツカネズミみたいだよね』 スギ、それはどういう意味? スギにとってのハツカネズミって実験動物にしか思えないんだけど。 思っても、全部書くのが面倒くさい。 ペンを投げ出してしまいたくなる。 言葉にすれば早いのに。 私とスギがそんな筆談をする隣で隆太が笑う。 笑い声が聞こえてきそうだ。 コウは?って隆太がスギに聞いている。 『晃佑とはけんかで別居中。加藤くんも別居できる家あったほうが便利かも。千香は私の家に逃げてくればいいからね?鍵を千香に渡しておこうか?』 スギは言いながら、私にもわかるように書いてくれる。 隆太は私の持っていたホワイトボードにスギへの返事を真似して書く。 『ちょっと待った。千香に逃げられたくないから変なことしないでくれ。千香はトモちゃん以上に逃げ足が速い』 どういう意味だよ、隆太。 確かに逃げていたのは私のほうばかりだけど。 『加藤くん、思いきり千香を独り占めしてる』 『当然。千香は一人でどんどん先に歩いていくから、こんなことでもないと追いつけない。俺の腕の中に閉じ込めておけない。今だけでも俺だけの千香を満喫しまくってやる』 『こわいくらい愛されてるね。うらやましいかも』 スギは私にそう書いて、隆太は大きく、 『当然。愛してるよ、千香』 なんて恥ずかしげもなく書いて、私のほうが恥ずかしくなる。 愛してると言って…なんて最初に言ったのは私だったっけ。
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