Ceaseless happiness and sadness

9/15
前へ
/606ページ
次へ
話せないくらいがちょうどいいのかもしれない。 聞こえないなら、余計なことも聞かなくてすむ。 そんなふうに思うところは相変わらずあるけれど。 食事を作りながら、隆太は何かを口ずさむ。 『なんの歌?』 聞いてみると、ホワイトボードに書いてくれる。 『リナーナのアンブレラ』 洋楽。 知らない。 隆太が流してくれていた曲にあったかもしれないけど覚えてない。 曲がわからないと頭の中で再生してみることもできない。 『You can run into my arms. It's okay don't be alarmed. Come here to me. There's no distance in between our love. So go on and let the rain pour. I'll be all you need and more』 英文書かないでもらいたい。 しかもすらすら書いてくれちゃって、英語苦手だからなんか悔しい。 ちょっと待ってって隆太に示して、書いてくれたその歌詞を訳してみる。 隆太は軽く笑って、私が訳すことに懸命になっている間に食事を器に盛りつけていく。 お手伝いするから待っててくれたらいいのにって思う。 私の腕の中に飛び込んでいいよ。 大丈夫。安心して。 こっちにおいで。 私たちの愛に隙間はない。 だからこのまま雨にもっと降られてしまっていい。 私はあなたが望む以上の存在になるから。 …たぶんこんな感じ。 隆太の言葉みたいで何かが恥ずかしい。 きっと…こんな気持ち。 そう思うから。 食器を食卓に運ぶ隆太を見て、隆太の手があいたのを見ると、その体に抱きついていった。 鼓動が聞きたい。 胸に頬を擦り寄せて、ぎゅうって抱きしめる。 隆太の手は私の頭を撫でて、背中を抱いてくれる。 心に聞こえる隆太の声。 ここにいる。 とくんとくんって、隆太の鼓動が聞こえる気がする。 体を引き離されて不満げに隆太の顔を見上げると、冷める前に飯、って唇が動いた。 隆太の作ってくれるご飯に慣れてきた、同棲1ヶ月半。 隆太の作る煮物は甘すぎる。 太りそうだ。 言ったらきっと喧嘩になる。 わかってるけど、私の声でしっかりと伝えたい。 たとえば、あなたが私と同じように何か障害を持ってしまっても。 私はあなたのそばにいたい。 とりあえず糖尿にならないように私がご飯作る。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加