584人が本棚に入れています
本棚に追加
「おまえの家にいったら襲われそう」
俺は自転車を出して押して歩く。
奈緒美は俺についてくる。
「ちょっと待ってよ。あたしが襲うの?」
「俺は襲わない」
「襲ってよ。隆太、かたいなぁ。コウみたいにもっと軽く家にきてくれたらいいのに」
「軽く家に上がり込んで軽く襲えって?俺、奈緒美とつきあってない」
「つきあってってあたし、言ったよ?」
「俺は断った」
「…なんで?あたし、かわいいほうだと思うんだけど。ナンパもされる」
確かにかわいいほうかもしれない。
俺じゃないのを狙えばokされるだろう。
軽く家に上がり込んで、軽く襲うだろう。
奈緒美はそれをわかっているようだし、軽く受け止めて軽くセックスするんだろう。
……俺はそんなの望んでもいない。
「彼氏欲しいなら他を当たればいいだろ」
「もうっ。隆太を狙ってるって何度言えばいいのっ?……隆太がいい」
「何がいい?手近にいただけだろ?」
「それはあるけどっ、隆太を好きになったからコウと別れたいって思ったのっ。隆太のほうがかっこいいって思ったのっ」
「俺に幻想抱きすぎじゃね?俺とつきあったら、どうせコウのほうがよかったとか思うんだろ?」
そういうのがコウのお古が嫌な理由。
俺は奈緒美の家に上がり込むつもりもなく、先に通学路を歩いていた麻美たちを見つけて声をかけていく。
カラオケいこうかという話になって、俺は予備校もあるし自転車で先に帰る。
奈緒美は麻美たちのところにおいて。
予備校いって、終わると真っ暗な空で腹も減りまくり。
家に帰れば飯も用意されているけど、まっすぐ帰るのもだるい。
コンビニで適当に飯を買って公園に寄って食べる。
プチ家出かもしれない。
帰りたくない。
家の飯を食べたくない。
家の人間と話したくもない。
飯を食べたあとはベンチの上で転がって煙草をふかす。
親の言うままに予備校いって、受験するのかと思うと、俺の未来はつまらない。
やりたいこともないし、親の言うままになるのもいや。
じゃあ、どうするんだ?と聞かれても、なにもしたくないとしか答えられない。
なにもしない未来のほうがつまらないのはわかりきっているのに。
最初のコメントを投稿しよう!