Baby lover(Ryuta↓all)

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ぼやぼやしていた。 千香とつきあえて夢見心地ってやつ。 教室の窓辺で春の陽気に目を細めていたら、俺は背中に思いきり蹴りを食らって、ぐはっ。 危うく教室の窓から蹴り落とされるかと思った。 振り返るとコウがいる。 俺はコウに蹴り返す。 俺より背も高いコウの足は長くて、動体視力もよくて、俺の蹴りはかすりもしない。 意地になると長い足で蹴り返されて俺が虐められる。 もう一発脇腹蹴っ飛ばされて、俺は内心泣きながらへたりこむ。 男前で足の長い幼なじみなんていらねぇ。 「なに幸せそうな顔していやがる?え?おい」 っていうのが俺に絡んできた理由らしい。 「…彼女できた」 俺は何を隠すでもなく、正直に言ってやった。 頬がにやける。 「彼女できたくらいでなんでそうなる?」 「相手はあれだから」 俺がずっとかわいいと思っていた子。 これ以上の幸せはない。 「にやにやすんな。気持ち悪い」 言われても俺はにやにや。 たまにちらっと千香を見る。 教室でも声をかけたいけど、冷やかされそうで声をかけられない。 彼女ができたって言っても奈緒美は俺に相変わらずくっついてくる。 奈緒美を無視して千香ばかり見ていたら、やっと視線が合った。 視線が合えば合ったで、なんか恥ずかしくて目を逸らしてしまう。 いちゃつきたいとは思うけど、どうも俺は奥手すぎるらしい。 千香はそのうち山瀬に声をかけられて廊下に出た。 むっとした。 また嫉妬してる。 放課後、いつもの公園。 いつものように千香は待っている。 俺は千香に近づくと、その手に握られていた、山瀬からの貢ぎ物となるドラムスティックを無言で取り上げて、ゴミ箱に投げてやった。 「千香。おまえ、俺の彼女だよな?」 「隆太は私の彼氏なの?」 「彼氏っ。他の男としゃべんなっ」 そのためにつきあおうって言ったのに、これじゃなんの意味もない。 まったくもってライバル排除になってない。 「私はダメで、隆太はいいの?」 言われて、奈緒美に絡まれていたことを思い出す。 「…しゃべってない」 「スキンシップはいいの?」 「……ダメ。…ごめん」 俺は自分に言えるものがないと思い知らされて、本当はすごく嫌ではあるけど、ドラムスティックを拾いにいって千香に返す。
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