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仲間内だとしても、二人きりではないとしても。
奈緒美に絡まれているのを見られている。
どれだけはねつけても奈緒美は俺に絡んでくるから、最近は放置。
でもそうも言ってられない。
千香がドラムスティックでビートを刻むのを横目に見て、そのスティックを掴んで止めた。
千香にダメと言いたいなら、俺もそれじゃダメなんだ。
「……俺と一緒にいる間は練習禁止」
これくらいなら許されるはず。
千香がドラムやるのかは知らないけど、山瀬と同じ趣味をデート中に見せられたくない。
「はーい。…隆太、予備校は?」
千香は素直にスティックを鞄に入れて、俺が聞かれたくないことを聞いてくれる。
サボってる。
当たり前のように全然いってない。
「…小学校でも中学でも…それなりの点数とっていたから、頭のいい私立に受験はさせられてきた。…ことごとく落ちて今は別に親に期待もされていない。親の行かせたいところに行かなくても、大学さえ入れればそれでいい。予備校の必要なんてない」
俺はそんな理由をつけてみた。
でもそれは言い訳だ。
自分でも予備校に行かずに毎日遊んでるのが千香にどういう印象を持たれるかわかってる。
よくはない。
いけと言われてしまいそうだ。
でも予備校いったら…毎日会えない。
学校で顔は見れても話せない。
「隆太って成績いいの?」
「まぁまぁ」
俺は答えながら、間を持つように煙草を取り出して火をつける。
もうニコチン中毒かもしれない。
千香は俺の腕に寄りかかろうとしてきて、俺はドキッとして慌てて離れた。
不満そうに俺を見る。
だからそうやって見るな。
また妄想の中の千香が言うだろ?
「リードしてあげるのに。馬鹿」
ほら言った。
俺は新しい煙草を千香のその唇に挟んで火をつける。
千香はすぅっと煙草を吸って、煙草の先端が赤く燃える。
ふうっとその唇が煙を吐く。
…指先、ふれた千香の唇の柔らかさ。
嫌なことから逃げて、ここにいて。
なんにもかっこつかないし、自分に自信もない。
なのに、その唇が欲しい。
無防備に俺に差し出したりするから、そんな欲望出てくるんだ。
妄想の中で千香は言う。
「もっとふれていいよ?」
目の前、ぐるぐるしそう。
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