584人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから、俺、彼女いるって言ってやってるだろ?」
「それでもいいって言ってやってる」
俺がそんなのいらない。
千香がいれば他にはいらない。
「というか、ずっと好きって言ってるのに、隆太が勝手にいつの間にか彼女つくっていたんじゃない」
「……断った」
「振り向いてくれるまで追いかけるって言ったよ?…若林のところなんて行かせたくない。さっさと別れちゃえば?」
「だから…、俺は奈緒美とつきあう気はないって。おまえ、コウとつきあっていたくせに、なんで俺にくる?コウに腹いせに見せつけるためにベタベタしてきているなら、俺を相手にするな」
俺は今日こそは奈緒美を諦めさせようと真剣に言ってやった。
泣かれたくもないし、自転車を出して逃げる準備もしておく。
「そんなんじゃないってば。あたしは隆太が好きなだけ。ねぇ?隆太の好みってどんな女?」
奈緒美は俺の逃げ道を塞ぐように自転車の前に回ってきて聞く。
俺も考えがセコいかもしれないが、奈緒美も俺の行動を読まないでほしい。
「…俺の行動を邪魔しない女」
「だから行かせたくないって言ってるでしょ?あたしを連れていってくれるなら道をあけてあげる。隆太、待ち合わせ場所教えてくれないし、押しかけられないもん」
「いくら好意を持っていても邪魔していいわけじゃないだろ?…俺、たぶん、本気でキレたら女でも殴れる」
俺はもう一度、いつも真剣に言ってやった。
奈緒美もいつもより真面目な顔を見せる。
「……なんであたしはダメなの?なんで若林とつきあったの?」
コウの元カノだったから。
俺はそれは言わないでやることにした。
コウとつきあったのが、奈緒美にとってのまちがいだったなんて思われたいわけでもない。
奈緒美とつきあわなくて、千香とはつきあいたいと言ったのは…俺の気持ちだ。
俺は千香に惚れていて、奈緒美に惚れてない。
単純にそれだけのこと。
「おまえとつきあいたいと思わなかったから」
はっきりと言ってやると、奈緒美の目からぽとっと雫が垂れた。
「……って泣くなよっ」
「隆太が優しくしてくれないからじゃないっ。…キスして」
奈緒美は強く俺を睨むように見て言ってくれる。
「ふざけんな」
言うと、ぽとぽと奈緒美は涙をこぼす。
別にふざけてるわけじゃないのはわかってる。
わかっていても口から出た。
最初のコメントを投稿しよう!