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雨の日は並んで歩く。
自転車の後ろに乗せてぴとっと俺の背中にくっついてくれるのもうれしいけど、そのかわいい顔を見れるから並んで歩くのも嫌いじゃない。
目的地のゲーセンに辿り着くと、俺は俺の好きなゲームをして、千香は俺の近くでただ見ていたり、クレーンゲームをしにいったりする。
少しゲームに熱中していたら、俺の頭の上にどすっと鞄が乗った。
「ごめん、千香。隣座って待ってて。もうちょっと」
俺は相手も確認せずに言って。
「誰が千香よ?このモテ男っ」
なんて声に振り返ると、そこにいたのは奈緒美だった。
「…また泣きたいのかよ?」
俺に声をかけてくるなんて。
「ジュース奢ってくれたら、隆太のまわり、ちょっと整理してあげてもいい」
奈緒美は同じクラス。
俺がなぜか狙われまくって、女が睨みあっていることも知っているらしい。
整理はしてもらいたい。
整列させて整理券でも配っておいてもらいたい。
奈緒美が俺のそばから離れたらこうなるなんて思ってもみなかった。
俺は奈緒美にジュースを奢ってやる。
自分のぶんも買って、口をつけて息をつく。
千香は今はどこかにいっているが、いつ戻ってくるかわからない。
あまり長くは奈緒美と話していられない。
千香がまた俺に浮気してもいいなんて言う。
言われたくもない。
「座って話そう。ほら」
奈緒美は俺の腕をひいてベンチに座り、俺もしてほしいこともあるからおとなしくその隣に座る。
「で、整理券は?」
「若林がおとなしすぎるんでしょ。彼氏と同じクラスでいくらでも睨みきかせられるくせに、汚れるのは嫌だみたいに席から動かないのが悪い」
「…おまえ睨みきかせてたのか。彼女でもないくせに」
「別に睨んでないよ。あんまりあたしが隆太に近づくから、隆太の整理券の1番はあたしが持ってるって思わせていたみたい。今は1番を取り争ってるよね」
「俺の1番は千香」
俺は当然のことのように言ってやる。
「ちょっとはあたしが隆太にフラれたこと気にかけてよっ」
「何回振ったらわかるんだよ?」
「それ違うっ。…隆太ってコウみたいに優しくない…」
「そういう優しさもあるって思えよ。誰とでもつきあうばかりが優しさでもないだろ」
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