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「あたしが言ってるコウの優しさはそんなんじゃないよ。隆太みたいにひどいこと言わない。あたしが振ったのに恨まない。つきあってるときは本当に特別扱い。彼女はおまえだよってさっきまで他の女の頭撫でていたくせに、見せつけるようにぎゅって抱きしめてくれる。優越感くれる」
「…あのな…。だからコウに腹いせのように俺とつきあいたいっておまえも言ってたんだろっ。わかってるから俺とコウを比べるのはやめてくれ。どうせ俺は女の扱いに慣れてねぇよっ」
「…それでも、そんなんでも、隆太に惹かれたのは本当だもん。コウが他の女に優しくするのが気に入らなかったのもあるけど、隆太がよかったのっ。…頬つねられるの好き。頭叩くくせに撫でてくれるの好き。妹扱いみたいなの好き」
「…なんでまた告白になってんだよ?だから何回振られたら気がすむ?」
好き好き押されすぎて恥ずかしくなる。
その気持ちはうれしくはある。
「好きなもんは好きなんだよっ。だから隆太のまわり整理してやるって言ってやってるんだよっ」
奈緒美は俺の真似をするように喧嘩越しに物を言う。
好き好き言うなと言いたい。
「どうすんだよ?その整理」
「コウを動かす。元カノに冷たいやつだけど、コウなら動いてくれる。一人めんどくさそうなのがいるけど、それは隆太が自分でなんとかして」
「おまえみたいにしつこいとどうしようもない」
「あたしをそこと同等にすんなっ。…殴ればいいよ。本気で。殴って恨まれればいい」
「…殴りたくない」
口では言うけど、それが本当のところだ。
叩いて撫でてしまうのは叩きたくないから。
言ってもわかってもらえないけど。
女を殴る趣味なんてない。
「あたしは若林を殴りたいよ。自分の彼氏が女に囲まれて困ってるのに我関せずなんて。嫉妬と言われてもあたしの彼氏には誰にも手をふれさせない。…あたしのほうが若林よりいい彼女になったもん。絶対」
奈緒美は泣いた。
こういうのを受け止めてやれない俺は小さい。
その頭を軽く撫でて慰める。
泣かせたのは結局、俺なんだけど。
「…うまくいったらデコチューして」
「ふざけんな」
言ったら、奈緒美は笑った。
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