Breath

8/21
前へ
/606ページ
次へ
「……八つ当たりかもな。おまえ、奈緒美振りまくってるのに、奈緒美に庇われてるから。このモテ男」 おまえに言われたくはない。 とも思ったけど、告白された数だけがモテているわけでもないんだよなと思う。 惚れられた数…というか。 つきあうことくらい遊びでもできる。 コウに本気で惚れた女は何人いるんだろう? コウが本気で惚れた女は何人いるんだろう? 「奈緒美のこと、好きだった?」 「さぁ?どうだっただろ?」 「ごまかすなよ」 「…かわいかったな。始まりが簡単すぎたけど」 「どんな始まり?」 「コウって誰とでもつきあうよね。あたしともつきあってくれんの?で、つきあった」 軽すぎる…。 俺が千香につきあおうと言ったドキドキはどこにもない。 「おまえ、何人の女とのつきあい覚えてる?全部覚えてる?全部始まり言える?」 「もうさすがに言えない。年とった」 「おまえ17だろ。つきあった数が多すぎるんだろ」 言ってやるとコウは笑う。 そのうち本鈴が鳴って、俺とコウは空き教室を出て、廊下を歩き出す。 「俺も惚れられたいなぁ。愛されたい。愛されるおまえがうらやましい」 コウは呟くようにそんな言葉を吐く。 「愛って響き、なんかキザっぽい」 「そうか?彼女に言ってやれば?愛してるって」 「…恥ずかしくて言えるかよ」 俺はそれを言ってる自分を考えてみて赤くなる。 言えない。 思っていても言えない。 「俺に言ってみて」 「おいっ、違う。それ違う」 「じゃあ俺が。愛してるよ、隆太」 コウは俺を振り返って、男前のその顔でまっすぐに俺を見て告白でもするかのように言った。 ぞぞっと背中に寒気が走った。 気持ち悪い。 本気で気持ち悪い。 全身鳥肌。 泡吹いて倒れそう。 「……イマイチだな。雰囲気も盛り上がりに欠ける。肩でも抱き寄せて顔近づけて言うべきか?」 コウは俺を練習台にしようとしてきて、俺はコウに蹴りを入れて距離をとらせる。 「なんの研究だよっ」 「愛を語り合おうか、隆太」 「また女にフラれたのか、おまえはっ。フラレ虫っ」 コウの失恋したばかりの傷をえぐった俺は、コウに蹴りを入れられまくる。 かわしてかわして受け止めて流して反撃。 蹴りだけならコウのおかげで鍛えられてきた。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加