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晃佑がきたのは、そんなときだった。
ここは晃佑の家からそんなに遠くはないらしい。
思った以上に早かったようで。
背後に聞こえた晃佑の声に、トモは体を震わせて、私を放って逃げ出した。
私は咳き込みながら、口に入れられたものを懸命に吐き出そうとして、ベッドの上を転がってうつ伏せる。
口の中は粉だらけ。
紙を吐き出していた私の頭にふれた、大きな手のひら。
「チカっ、大丈夫か?粉、飲んだ?吐き出せ」
晃佑は私の腕を拘束していたガムテープを外して、私の体を抱き上げて。
どこに連れて行かれるのかと思ったらバスルームで。
私はそこに見えた蛇口を捻って水を出すと、口の中を濯ぐように蛇口からそのまま水を口に入れ、その場に吐き出す。
クスリのせいで頭が朦朧としている。
この朦朧とした意識を消すように、ひたすら吐き出した。
私の体には晃佑が着ていたコートがかけられて、私は吐き出す行為に疲れて、バスタブの縁に寄りかかる。
クスリは私の体内に、血液に巡ってしまっているらしい。
気持ちが悪い。
「誰がおまえをここに連れてきた?おまえが自分からここに乗り込んだんじゃないだろ?」
朦朧としている私の耳にそんな晃佑の声が聞こえる。
トモの泣き顔が頭に浮かんで、私の顔を殴りつける拳が見えて。
私はそれを消すように頭を横に振った。
無意識にまた体が震えていた。
「…悪い。おまえに聞かなくても、あっちにいるどれかに聞けばわかる。……犯された?髪…綺麗だったのに」
晃佑の手は優しく私の頭を撫でて。
晃佑はそのまま立ち上がって部屋のほうへ戻っていった。
私は朦朧とした意識の中。
そこで何があって、どう収集がついたのかはわからない。
ただ、意識がはっきりしてきた時には、私は晃佑の家にいて、晃佑の体にしがみつくように抱きついていて。
晃佑は私の体を両腕でしっかりと抱きしめてくれていた。
晃佑の肩に顔を押しつけて、私は目を閉じる。
晃佑の匂いがする。
その体温が暖かい。
好きなのに…、ここにいたいのに…。
ここにいるのがこわい。
体が無意識に震えて、涙が頬に流れた。
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