Breath

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学校では話す機会もないまま、結局放課後。 奈緒美の計画のおかげで女たちはおとなしくなった。 奈緒美に礼を言ってから待ち合わせ場所にいこうとした。 千香には見られたくないし千香が帰ったのを見てから、帰ろうと廊下を歩く奈緒美に近づいて隣を歩く。 「……ん、デコチュー」 俺の顔を見ると、奈緒美は立ち止まって額を差し出してくる。 俺はぺしっと手のひらで奈緒美の額を軽く叩いてやる。 「ありがと。はい、駄賃」 奈緒美の手の中にジュース代を転がして、俺はさっさと千香のところへいこうと歩き出そうとした。 「…まだ好きなんだけど」 言われて俺は奈緒美を振り返る。 奈緒美はじっと俺を見ていた。 「…俺を愛してる?」 聞いてみると奈緒美は赤くなった。 俺は笑って、それ以上奈緒美と話すことなく、急ぎ足で千香のところへ向かう。 昨日の雨は朝にはあがっていたけど、曇り空の一日。 公園の中の足元は濡れたまま。 あたりを見回して千香を探すと、千香はジャングルジムの頂上近くに座っていた。 子供の大きさの小さなジャングルジムといっても、その近くまでいくと俺は千香を見上げる。 千香は黙って俺を見ていた。 「昨日はごめん。どっかいくときはもう別行動しない。本当にごめんっ」 俺は思いきり頭を下げて謝る。 何度でも謝る覚悟はある。 だから怒ってほしい。 呆れられたくはない。 「私が勝手に先に帰っちゃっただけ」 千香はそんな答えをくれたけど、納得はできなかった。 先に帰った理由がある。 たぶんまた見られていた。 「……俺が奈緒美といたからだろ?」 俺は頭を上げて、そこに拗ねたり怒ったりしてくれないかなと千香を見る。 「…隆太が男友達といても先に帰っていたと思う」 千香は拗ねるも怒るもなく言ってくれる。 それは俺が淋しい。 俺がうまく甘えさせてやれないから、そういうのしなくなったのかなと思う。 「千香の時間がある限り、一緒にいたいのは俺だから。もう一人で帰らせない。千香が帰るなら、ちゃんと送っていく」 「……学校で話さないくせに」 話そうとはしてる。 …実行できていない時点で話さないのと同じだ。 しかも今はまだコウが忠告入れたところ。 千香にコウに好きなように言われた逆恨みがこないとも言い切れない。
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