Breath

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学校は狭い空間なのに、俺と千香の連れも違うから声をかけるのは挨拶程度になる。 コウを見習って俺の連れの中に千香を引き込んでしまいたい。 千香がいつも一緒にいる杉浦もかわいいから、何か男が集りそうで嫌だとも思う。 あの二人組にめったに男から声がかからないという今までのものを崩しそうで嫌だとも思う。 しかも俺はまた違う女に絡まれている。 修羅場引き起こしてどうするんだとも思う。 結局また学校で声をかけられないまま、放課後。 俺は千香が待っていてくれることを願って公園にいく。 千香はいた。 ベンチで煙草に火をつけていた。 俺は千香に近づいて、千香の持つ煙草を摘まんだ。 千香は視線をあげて俺を見る。 煙草を教えたのはどうやら俺だけど。 俺と同じ煙草を吸ってる。 俺はそのまま千香から煙草を奪って口をつける。 「昨日、何してた?」 「教室でぼんやりしてた」 学校に戻ればよかったのか。 千香も教えてくれれば…って、そうだった。 「…携帯持ってない?」 「すっごく今更」 千香はスカートのポケットに入れていた携帯を俺に見せる。 俺は煙草をくわえて、千香から携帯を受け取って、自分の携帯を取り出して、アドレス交換。 「…昨日、俺、ここにいた」 「私もひたすら待っていたことあるよ。隆太はこなかった」 嫌な記憶を思い出させないでもらいたい。 母親とデートしたなんて言えるか。 俺の記憶から抹消したいくらいだ。 「あれは親からの呼び出し。けどっ、これでもうすれ違わない」 俺は千香の手に千香の携帯を返す。 「……予備校、行かなくていいの?隆太が目指してるのって、やっぱり弁護士?」 また嫌なことを思い出させてくれる。 俺が逃げてるから悪いのはわかってるけど。 「法学部なんて、未成年喫煙で法を冒している俺に似合わなさそうなのにな。弁護士は親の理想。予備校行くより俺は千香といたい」 また甘えてると妄想の中の千香に言われそう。 俺は携帯の中に入れた千香のアドレスを見ながら、これは近づいたのか遠のいたのかと考える。 携帯は便利だ。 ただ便利なぶん、コミュニケーションがとれているようでとれない。 いつでも会えるなんてこれ一つで思えてしまうから。 言葉をかわしているようで、結局は無機質な文字だけ。 声と表情がなければ相手のことなんて見えない。
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