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俺は予備校にいくことにした。
毎日予備校はないけど、毎日千香に会えなくなるのが淋しい。
それでも少しでもかっこつけるなら、俺の弱味を見せていたらダメなんだと、千香に惚れてもらうには、千香がいいと思うほうに進まないといけない。
俺は現実では結局逃した千香の唇に妄想の中でキスをする。
妄想の中の千香は言う。
「私、隆太のことかっこ悪いなんて言ったことないでしょ?…キスより先は…おあずけ」
ダメ。
法学部受かったらは言ってみただけだろ。
おまえのことだから、そのうち弁護士になったらとか言い出しそうだけど。
キスしたら、もちろんその先もする。
千香の初めて全部もらう。
俺の初めて全部あげる。
おあずけは好きって言葉だけにして。
聞かなくても…聞こえるから。
俺にふれるその手が、俺を見るその目が、ちゃんと伝えてる。
伝わってる。
俺の手は伝えられてる?
予備校のない放課後、俺は千香とデートをする。
「千香は進学したいのか?」
学校で見た千香の様子を思い出して聞いてみる。
千香は奨学生の募集を見ていた。
「…現実問題、進学したいって言ってもできない。お金ないし、頭もそこまでよくないし。隆太はお金出してくれる人がいるし、頭もいいんだから、行かせてくれるなら行けばいいんじゃない?」
「千香が大学行きたいなら俺のかわりに目指してくれればいいのに。俺が働いて援助する」
「なんか違う。それ。あ…、でも、どうしても大学へ行きたかったら、働いてお金貯めてから行けばいいかなと思った」
「そういうのもアリだよな。…俺が言いたいのは、俺のペースで生きたいってこと……なのかも」
「自分のことなのに曖昧」
「自分のことほど曖昧になる。他人のことはわかっても、自分のことのほうがわからなくなったりする」
「自分をもっと見つめてみる?」
「それ、ちょっと気持ち悪い」
俺は笑いながら答えて、通りがかったバリケードの張られた階段を見る。
ちょっと探検してみたくなって、千香に鞄を渡して持ってもらうと、その中に入ってみた。
中は街灯の明かりもあって暗くもなく、ただの封鎖された地下へ続く階段。
外から見えないから、いい隠れ場所。
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