Story

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彼の手は慣れたように私の体にふれる。 薄く目を開けて、私の顔をまっすぐに見ながら、スカートの中に手が入ってくる。 彼はその体を私の体に寄せて、片手で足を撫でながら、片手で私の手首を握る。 彼の唇を塞いだ手を離れさせられた。 「足、すべすべ。……しよ?トモ」 「……したことない」 私は泣きそうになりながら、どう言えば彼から逃れられるのかわからず、それだけ言葉にできた。 「バージン?…俺の家くる?じっくりゆっくりしてあげる」 私はまちがっても彼を誘ってはいない。 頭を横に振っても、彼はその唇に笑みをのせて。 私の頭は掴まれて。 ほぼ無理矢理、強引にキスをされた。 私の…ファーストキス。 つきあってもいない、ほぼ今日話したばかりの男。 場所は小汚ないトイレ。 彼の体を引き離そうとしても動かなくて。 彼の手は私の後ろ髪を引っ張って。 痛みに顎をあげると額を押さえつけられてキス。 まったくもって甘くない。 どちらかといえば強姦。 私は目を開けたままで、目を閉じている彼の睫毛を見ていた。 酒くさいし。 ものすごく誰が相手でもいいって感じだし。 私の足が震えているのもおかまいなし。 「…連れて帰る」 彼は唇を離れさせると言った。 その目は細くなって、優しげに私を見つめる。 「……遠慮します」 私は心から言った。 優しげ…に見えるけど。 髪引っ張られまくるし。 額押さえつけるし。 強姦なんてやだ。 彼はあからさまに不機嫌をその顔に出す。 「強制。トモは俺のなの」 いつからそうなった?酔っ払い。 私は私の意思でいやだと言っている。 何を言っても無駄のような気がした。 「酔ってないときに言ってください」 「そこまで酔ってないって」 「私のことわかんないくせにっ。誰でもいいのにっ」 「誰でもいいけど、トモ、美人だし。すげ好みなんだもん」 彼はうれしそうにその顔に笑みをのせる。 褒めるのはずるいと思う。 そんなこと言われたこともない。 好みとか言われたのも初めてだし。 私は………お持ち帰りされてしまった。 ただの酔っ払いに。
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