Break

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「んーっ、い…っ。あ、入った」 俺の部屋に上がり込んだやつは何かぶつぶつ言っている。 俺は机に向かってノート開いてかりかり勉強中。 辞書開いて調べてとしていると声をかけてくる。 「見て見て。穴あいた」 と、俺に耳のピアスを見せてくるのはコウだ。 見てやると軟骨に新しい穴をあけてピアスつけてる。 3つめ。 そのうち穴だらけにしそうだ。 いや唇か鼻かヘソにいくかも。 ゲージ大きくして大穴あけるかも。 「またフラれたのか?フラレ虫。まだ前にフラれて1週間たってないだろ」 「フラれてねぇよっ。…その気分転換ではある。おまえももう1個あける?」 俺は左に1つあけてシルバーの小さな玉を通した耳にふれる。 小さすぎてあまり見えない。 学校で注意されるから最近はこればかり。 「左にもう一つ、上のほうの軟骨いきたいけど、気分転換したくなったらにするかな」 「あけてやるよ?」 にやつくコウの手には安全ピン。 ピアッサーでここに空けるのはこわい。 安全ピンもこわいかもしれない。 たぶん痛い。 耳たぶよりかたい。 まず空けようとするなってとこだろう。 1つめ空けたのはコウが空けるのにつきあったら俺も空けてみたくなっただけ。 最初は違和感あったけど、今はもう普通に空いてる。 慣れれば違和感はなくなる。 「今は遠慮。…コウは就職?」 「わかんね。就職しようかな。大学に興味ないし、金稼ぎたいし。おまえみたいに小遣いもらえないし」 「なんの仕事?大工?」 「大工はじい様。あ、でもそっち方面でやりたいかも。…思い出した。じい様から廃材にする木材やるって言われてるけど、おまえいる?」 「いる」 俺は何を考えるでもなく答える。 本棚が欲しかった。 材料あるなら作りたい。 「どんなデザインにするかな…。ものによっては木目使いたいなぁ。工具新しいの買おうかな」 俺はもうもらったことにして、どう料理するか考える。 ものをつくるのが好きかもしれない。 千香にもなんかつくってやるかな…。 いらないって言われそうだけど。 「…おまえが大工なれば?」 「なりたいかも」 俺は答えて、そこにある参考書の山を見る。 本音、勉強したくない。 …それでも。 千香を思い浮かべると、俺はまた机に向かう。 そこが今の俺を動かすすべてかもしれない。
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