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千香がまったくもって山瀬に気を向けていないのはわかっていても、声をかけられるのを見ているのはおもしろくない。 山瀬が連れならそういうことを考えたりしなかったかもしれない。 俺は山瀬と話したこともない。 完全に仲良くしている顔ぶれが違う。 山瀬に牽制するよりも、俺は俺に声をかけてくる女を排除することにした。 コウにかまってるだけの女とも連れの彼女とも言葉をかわさない。 「それってどうなの?なんかコウの元カノへの態度より冷たい」 と、奈緒美に声をかけられる。 「おまえも俺のこと嫌えよ。俺はおまえと友達になったつもりもない」 「…冷たい。だから殴ればいいって言ってるじゃない。友達顔して悪かったねっ。べたべたしてないんだから会話くらいしてくれてもいいでしょ?」 「おまえがしてくれたことに感謝はする。でも今後口をきかない」 「…隆太、それって若林がしろって言ったの?」 言ってないけど。 俺は口を閉じて答えない。 「なんでそんなに若林に忠犬なのっ?思いきり若林命って看板出してるように見えるっ」 …それは恥ずかしいかもしれない。 そう見られてももういいかとも思う。 実際、俺は千香の忠犬になってきている。 けっこう危ないかもしれない。 「…なんか言ってよ。そんなんで嫌えるわけないっ。もっとズタズタになるまで振ってくれないとまだ期待するんだよっ。待っていればいつか振り向いてくれるかなって…」 またコクられてしまっている。 うれしいとは思うから、俺のほうが痛い。 「もう俺に泣くなよ。連れの顔なんてしないほうがおまえも忘れられるだろ。さっさと俺なんて忘れて次にいけよ」 真面目に言ってやると、奈緒美は悔しげに涙を滲ませた目で俺を見る。 「できたらやってるっ!若林にフラれちゃえっ!」 奈緒美はそんな大声をあげて、逃げるように走っていった。 …かわいいんですけど。 俺に傷ついて泣くくらい惚れてくれてる気持ち、本気でうれしくはあるんですけど。 …言ったら、また期待させるんだろう。 泣かせるのは嫌だ。 受け止めてやれない俺のほうが痛い。 山瀬みたいに何股でも股がけできる器用さが欲しいかもしれない。 誰を傷つけても一人しか見れないのは不器用だなと思う。
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