Shan't

2/13
前へ
/606ページ
次へ
大丈夫…と、晃佑は繰り返し言っていた。 泣いてしまった私を落ち着けさせるかのように。 だけど私の頭に寄せられた晃佑の目元には雫があって。 自分に言っていたのかもしれない。 わかってる。 晃佑は何もしていない。 晃佑は何も悪くない。 わかってるけど。 体の震えが止まらなかった。 今更のように怯えていた。 何度も晃佑から離れようとしたけど、晃佑は絶対に離さないってくらいに私を抱きしめたままで。 私は震えながら、その腕の中で小さくなる。 晃佑がいるから私は気を張ることなく、甘えて怯えていられたのかもしれない。 晃佑にふれるのも、近くにいるのも…こわかったけど。 学校なんてとてもいけなくて。 バイトにもいけなくて。 晃佑が言うから、晃佑の家にいた。 服は晃佑のを借りて着ているけど、当たり前のようにぶかぶか。 お風呂に何度も何度も入って、傷だらけになった体をひたすら洗って。 鏡を見るとものすごくお化けみたいな自分がそこにいて。 「ただいま」 と、晃佑が仕事から帰ってきたときには、パーカーのフードを目深に被って部屋の隅にうずくまっていた。 顔を見られたくない。 「病院いって美容室いって服をチカんちから持ってきて…って、先に服かな。チカの下着ないし」 晃佑はこれからの予定でも言っているらしい。 外に出たくないと思う。 お風呂に入ってから帰ろうと思っていたけど、まだここにいるのはそのせいだ。 「チカ?」 晃佑は私に近づいてきて、顔を覗き込もうとしてきて。 私はフードを更に深く被って体を小さくする。 晃佑は私の顔を見ようとしているのか、フードをはずそうとしてくる。 その手に抵抗するようにフードを精一杯押さえる。 「……腫れてるのか?昨日は時間外だったから病院行けなかったけど、病院いこ?俺に顔を見せなくてもいいから医者には見せて手当してもらってくれ」 晃佑はそれ以上無理にフードを引き剥がすこともなく。 晃佑の服をだぼだぼに着た私は晃佑に手をひかれて歩く。 晃佑はなにもしていないし、彼氏でもないのにお世話をしてもらっている。 面倒見のいいお兄ちゃんみたいだ。 寂しがり屋で甘えた子供のような人だと思っていたのに。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加