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俺を喜ばせてどうする? おまえは俺を振り払いたいんだろ? 何も声をかけられない俺のそばまで千香は寄ってきて、ベンチに寝転んだままの俺を見下ろす。 じっと千香を見ていた。 2度目になる千香の私服姿。 かわいい。 制服より私服のほうがかわいい。 「隆太の私服、初めて見るかも」 千香はそんな言葉を俺にかけた。 本当に会えるならもっと気合い入れてお洒落したのに。 髪そのまま。 ピアスもそのまま。 返す言葉を見つけられなくて、拗ねた顔を見せるように千香から顔を逸らす。 会いたかったと言っていいのかわからない。 まだ好きだと言っていいのかわからない。 何を言えば正解かわからない。 俺が呼び出したけど、千香が本当にきたりするから。 千香の手は俺の頭にふれて、軽く撫でる。 なにか千香に慰められてる気がする。 俺を振ったのは千香なのに。 俺に初めての失恋という傷をくれたのは千香なのに。 その手を捕まえて、甘えるように握った。 すぐには離してやりたくない気持ちで握って、顔を千香のほうに向ける。 「……家、大丈夫?」 「…どこいってたの?って言われるだけ」 前にもそう言ってた気がする。 そんな放置な親なら、このまま俺の家に連れ込もうか。 そのまま俺の家から学校に通えばいい。 そうすれば会いたいなんて言わなくても、毎日一緒にいられる。 俺の中の千香というエネルギーが切れることもない。 …おまえは俺のエネルギーをきらなきゃいけないのに。 忘れるなんて本当に容易いものじゃないな。 「遊んで」 「何して遊ぶの?」 「何したい?どっかいきたい?」 「隆太は?」 おまえがここにいるだけで満足。 だけど欲を言うなら…。 俺は体を起こして、握ったままの千香の手を引っ張る。 千香はバランス崩して俺の上に倒れかかってきて、俺はその背中に手を当てて支える。 「ちょっと、隆太っ」 千香は俺の脇のベンチに手をついて俺に焦ったように怒ってくる。 「…俺、別れてやらないって言っただろ?おまえは俺の彼女のまま。…キスする?抱きしめる?どっちがいい?」 どっちもいやとでも答えればいいのに、千香は何も言わなくて。 俺は背中に当てた手で千香を引き寄せて抱きしめた。 調子にのるなと俺を張り倒せばいいのに、おとなしく俺の腕の中。
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