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「…若林と話したくないもん。あたしから隆太を奪っておいて、他の男に擦り寄りやがって」
「俺、おまえのものでいたことない」
「隆太、うるさい。静かに聞いて」
「…おまえはなんなんだよ」
俺にかまわれたいのか、絡みたいのか、独り言を聞かせたいだけなのか。
「若林は気に入らないけど、隆太がフラれるのはいや。…山瀬、2年の子とつきあってるはずだって男友達言ってた。二股してるんじゃないかって言ってた。その2年の子煽って、山瀬と若林の関係こわしちゃえば?」
奈緒美はそれが言いたくて俺に声をかけてきたらしい。
奈緒美の噂話みたいなものを鵜呑みにするのも難しい。
でも山瀬がそういう男だというのは、もうだいたいのやつらが知っていること。
千香はそれを承知のような気がする。
本当に二股だとしても、それでいいと開き直っている気がする。
あいつはそういうやつだ。
あの山瀬と千香に嫉妬みたいなものが互いにあるようには見えない。
「おまえが勝手にやれば?」
「隆太はもういいの?若林いらないの?」
「俺は千香一筋」
「だったら邪魔してやればいいじゃない。若林は二股かけるような男にはくれてやらないって言えばいいじゃない」
くれてやってるつもりはない。
邪魔して山瀬よりいい男に千香が寄っていくのを見たくない。
顔は山瀬はいいかもしれないけど、中身が男前ってやつ。
千香が他の男に惚れるのを見たくない。
……放っておいたら山瀬に惚れるのかも。
今は友達だけど、俺より長いつきあいもある友達。
…惚れても…、それは千香の気持ちだし…。
諦めきれない気持ちで目は追いかけているのに、どんどんひいてきている。
千香がかまってくれないから。
「…おまえの根性羨ましい。振り返らない相手にどうしてあんなに追いかけられた?」
俺はやると言うことなく奈緒美に聞いた。
「隆太がかまってくれるから」
奈緒美は悩むことなく、少し不機嫌に答える。
俺のせいらしい。
そうだよなと納得できてしまう。
俺も…そこまでやっていいんだろうか?
でも…今の俺のように胸が痛かっただろうなと奈緒美の気持ちを考える。
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