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「……俺のもう一人の彼女の元彼」
山瀬は彼女に何を隠すこともなく言う。
彼女は知っているらしく、たいして気にした様子もなく納得した。
…つまらない。
了承の上の二股らしい。
「彼女、名前は?」
「あ。美恵です。中藤美恵」
「俺は加藤隆太。よろしく、美恵ちゃん」
俺は愛想よく挨拶して、同学年の女に対する俺の態度を知ってるらしい山瀬はそんな俺に複雑な表情をくれる。
「おまえな…。美恵を俺から奪うつもり?」
なんて聞かれた。
まったくもってそんな気はない。
興味も特にない。
「俺が美恵ちゃん奪ったら千香とだけつきあうのか?…俺になんの得がある?」
「…おまえに得は確かにないけど。…おまえに嫉妬されるようなことは、千香とはないから。つきあってはいるけど友達」
山瀬は俺にそうはっきり言ってくれる。
彼女が隣にいるからなのかと疑ってもみる。
「どんな友達?一緒にバンドして?学校でべたべた?…美恵ちゃん、嫉妬しないの?」
俺は彼女のほうにその気持ちを聞いてみる。
「美恵に声をかけんなよっ」
山瀬は彼女が答えるより先に俺に言ってくる。
つまりは千香よりも本命と俺は見る。
友達というのは嘘でもないようだ。
どこでどう転ぶかはわからないけど。
「…加藤が千香にもっとかまってやればいいだろ?」
山瀬はそんな千香は俺に返す姿勢を見せる。
「…おまえが千香にかまわなければいいだろ」
俺は山瀬に言い返す。
「千香とは友達だって言ってるだろ」
「彼女いて他の女と仲良くしてどうすんだよ?他の女を受け止めてどうすんだよ?おまえ器用すぎ。今ここで千香から呼び出されたら?どうすんの?美恵ちゃんおいていく?俺に奪われるかもよ?」
なんて言ってる間にタイミングよく山瀬の携帯が鳴って、山瀬は携帯を手にする。
「…千香から。…後回しにする」
山瀬は携帯をポケットに入れる。
…俺ならすぐに駆けつけてやるのに。
俺がここにいるのに。
千香は俺に甘えない。
悔しくて淋しくなる。
「……千香にフラれたのは俺だよ。邪魔して悪かったな」
俺は山瀬に言って、その彼女には愛想笑いを見せて、一人、背中を向けて歩き出す。
千香が俺から逃げる理由がわからない。
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