Shan't

4/13
前へ
/606ページ
次へ
私の言う「あっさりしたもの」がサラダだと覚えてくれている。 私は…フラれたはず。 バイバイって言われたはず。 砕け散るのを覚悟で晃佑に電話をしようとしていたはず。 晃佑が作ってくれたサラダを食べながら、今までのことを思い出していた。 私の体にふれるいくつもの男の手を思い出して。 男と女の狂ったような笑い声を思い出して。 鼻先にクスリを炙ったニオイを感じた気がして。 不意に私にふれたその手を思わず振り払った。 「いやっ!」 自分のその声に我に返ると、晃佑がそこにいて私を見ていた。 驚いたような晃佑の顔を見て、振り払ってしまったその手を見て。 泣きそうになる。 晃佑の服の袖を強く掴んだ。 違う…。 違うのって心の中で何度も繰り返して言って、謝る言葉を心の中で繰り返す。 ここにいたいのに…。 私は晃佑を傷つけてしまいそうだ。 体が震える。 堪えきれなくなった涙がまたこぼれる。 ごめんなさい。 「……大丈夫…だから。泣くな。思い出したくもないことかもしれないけど、落ち着いたら警察いって話してくれればいい。…もう薬物所持と使用で捕まえてもらったけどな。そこに婦女暴行被せてやれ。おまえの体から薬物反応が出ると厄介だから、せめて1週間くらい待ってからのほうがいいかも。警察にはもう話、通してあるから」 晃佑は気にしないとでも言うように、昨日は話すこともなかったことを話してくれる。 「…トモは?」 「留置場にでもいるんじゃね?」 トモも逃げられずに捕まったらしい。 好きな人に…警察に突き出されるって…どんな気分なんだろう。 自業自得…なのだけど。 「晃佑のセフレじゃないの?」 聞いたら、晃佑は思いきりあり得ないって顔を見せて、私の着ていた服の袖を握ってきた。 「ちょっと待て。俺はセフレなんてつくったことないっ。セフレにするくらいなら彼女にしてるってっ。なにっ?俺、そんなに女好きに見えるのかっ?」 「違う。別れる前…、晃佑、トモと手を繋いでこの家に帰ったでしょ?」 私の言葉に晃佑は首を傾げて、その記憶をたどろうとして。 なかなかたどり着かないらしい。 私は晃佑が思い出すまで少し待ってみた。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加