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別に山瀬と仲良くなろうとしているわけでもない。
それでもその彼女は俺を山瀬の連れと見たのか、俺を見ると笑って会釈する。
俺も愛想笑いを返して会釈。
そんなことを繰り返していると声をかけてくるようになった。
愛想のいい男に見えたらしい。
騙されやすそうな子だなと思う。
山瀬の好みなのか、俺の好みにも被るのか、明るくてけっこうかわいい。
山瀬の二股に理解を見せる彼女。
俺はよく晴れた秋空の下、することもないからその彼女と学校のベンチに座って話す。
「最初はいやだったけど、山瀬先輩、私のこと優先してくれるからいいかなぁって。でももう一人の彼女、先輩の元カノさん、美人だからちょっといやとも思ったり」
「…元カノ言うのはやめて?」
わかっていても、秋になっても、まだ認めてしまいたくない、俺の足掻き。
「先輩はまだ好きなんですよね?どうして何もしないんですか?山瀬先輩が二股だっていうこともわかってるのに」
いくらでも取り戻せるだろとでも言いたげに山瀬の彼女は言ってくれる。
奈緒美も言っていたような気がする。
「俺が下手に動いて美恵ちゃんの邪魔になるかもしれないよ?」
俺が動けば千香は逃げる。
逃げて更に山瀬に寄りかかることもある。
いや、あいつならする。
「えー。先輩が彼女さんとよりを戻してくれたら山瀬先輩は私だけってなりません?」
普通ならその考えでまちがっていない。
でも千香は俺から逃げるから…。
試してみてもいいけど。
逃げまくられるのも嫌ではあるけど。
もう一回…押す?
俺の呼び出しには千香は応えない。
どこでどうやって押す?
それを考えると沈んでいたものが浮いてきた。
千香に撃沈されそう。
でも山瀬に見せるその甘えが俺も欲しい。
かわいい千香が恋しい。
俺は女心を知るように、どうすればいいのかその山瀬の彼女と話し続けていた。
たまに笑ったり楽しくやっていたら、俺の後ろ頭にがすっと何かがぶち当たってきた。
痛い。
山瀬かと思いながら、俺に当たったものを拾いあげるとドラムスティック。
後ろを見ると、音をたてて教室のカーテンが閉められた。
山瀬なら声をかけてくるはずだ。
千香?
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