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「文化祭だけ現れる軽音幽霊部員のボーカルと?ようやく?」
俺は山瀬の名前を出さずに聞いてやる。
「隆太と」
答えなんてわかっていた。
それでも悔しい。
俺には千香しかまだ見えない。
「山瀬と別れろよ。俺がさっき話していたの、山瀬とデートしてた女」
俺は山瀬の彼女とは言わなかった。
二股。
千香が二股かけられているのは俺がうれしくない。
千香と山瀬を壊しにかかってるかもしれない。
「なんかモテるよね。モテてくれない人でいいのに」
千香はだからどうしたと言わんばかりに、どこか山瀬に高い評価を見せる。
そんな男は最低だと思わないのは、千香の性格なのか、それだけの気持ちで山瀬とつきあってるわけじゃないからなのか。
俺には壊せそうにない。
別れろの言葉に千香は無反応。
「自分にある程度自信がなかったら、おまえみたいな女に手を出そうと思えない」
千香はかわいいから。
見ているだけのアイドル。
俺のまわりで千香と杉浦の評価は高いのに、フラれるのが嫌な男たちは鑑賞するだけ。
「隆太も自分に自信あるの?」
千香は俺をからかうように言ってきた。
俺は軽く不機嫌になって、だったら手を出してやろうかと窓枠に足をかけて乗り越えて、教室の中に入る。
自分に自信なんてない。
どれだけの女に告白されても、千香にフラれたそれが俺のすべて。
千香が俺の隣で笑ってくれていたなら、すべて自信過剰くらいになれただろう。
千香は俺から距離をとるように離れ、俺が千香に一歩近づこうとすると、千香は一歩離れる。
逃げられている。
「…なんで逃げる?」
「…手を出されそうで」
出す。
そう。あの約束、守らせてやる。
「法学部受かったら、絶対におまえで童貞捨ててやる」
おまえに俺への気持ちがなくても。
俺は隙を見て、千香の腕を掴んで逃がさないように捕獲。
そのまま唇を千香の唇に押しつけた。
片手は腕を掴んで、片手で千香の頭を押さえて、唇から俺の気持ちを伝えるようにキス。
逃げないで。
俺はおまえを傷つけたいわけじゃない。
おまえと笑って楽しくいたいだけ。
おまえは…これで更に俺から逃げるんだろう。
唇を離しながら目を開けてその千香の目を見つめた。
蕩けたような目を俺に見せて嫌がった顔もしない。
大好き。
その目から俺はそう聞こえるんだけど。
その気持ち、どうして掴めない?
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