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もっとキスして呼吸荒くしてしまおうとしたら、廊下に人の気配。
千香の腕を離した。
千香は俺から顔を逸らして少し離れ、この教室の開けられたままの扉から入ってくる人に俺は視線を移す。
「千香ー、お待たせ…っと」
山瀬だ。
山瀬は俺を見て言葉を止める。
「…待ってない。ベースは?」
「すぐくる。…練習見ていく?」
山瀬は俺に聞きながら、背負っていたギターをおろして、練習の準備。
千香は俺が窓枠を乗り越えるときに、そこに置き去りにしたドラムスティックを拾って、山瀬の準備を手伝うように動き始める。
「これここでいい?」
「うん。あ、それ重いし俺がやるって」
千香が移動させようとしたアンプを山瀬が止めて移動させる。
千香は俺を無視するかのように、こっちを見ない。
その視線は山瀬を見る。
俺は胸の中に溜まるものに堪えきれなくて、何も言わずに教室を出た。
逃げるように廊下を歩いて溜め息をつく。
二股でも千香はよくて。
俺は千香しか見ていないのに、それはダメで。
千香は遊ばれたいのかもしれない。
軽い気持ちしか欲しくないのかもしれない。
俺の気持ちは迷惑としか思わないのかもしれない。
思っても思っても、千香が俺に見せる表情が否定をする。
文化祭には千香がドラムを叩いている姿を見ていた。
山瀬がギターボーカル。
山瀬は下級生に人気で、こんな学校行事でも盛り上がっている。
うるさいくらいの音の中にいても俺の耳には何も聞こえない。
ぼーっとステージを見ていたら、俺の腕を引っ張る手。
そっちを見ると、山瀬の彼女とその友達らしき女。
笑顔で俺に挨拶してきて、俺が軽く愛想笑いを返すと、俺のそばでステージを見る。
なぜか山瀬の彼女が連れてきた女が俺の袖を握って離れない。
それを引き離すのも面倒でそのままにしていた。
知り合ったのはそんなもので。
その女は俺を探して声をかけてくる。
狙われてるんだろうなぁと思いながら、俺のまわりから女を完全排除した気力もない。
する意味もない。
新しい恋愛探せよと自分に言ってやりたくもなる。
モテるし。
俺の中身はないかもしれないが、なんかモテるし。
モテるの今だけかもしれないし。
モテているうちに彼女つくってキスもセックスもして、軽く遊ぶつきあいを繰り返してまわりと同じになってもいいじゃないか。
…別になりたくないわけでもない。
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