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奈緒美くらいに俺が振ってもめげずに何回もきてくれるならつきあってみよう。
なんて条件つけて、何回もくる女がいたら、また別の条件つけて。
結局、誰ともつきあう気になれない。
受験勉強して、勉強ばかりのストレスの息抜きにコウのじいちゃんからいただいた木材で物を作る。
別に必要でもない小箱。
模様をデザインして掘って、磨いて、釘は使わずに組み木で箱の形にする。
デザインした模様が細かくて掘るのに時間がかかる。
時間かけて作っても、ただの息抜き。
売ることもなく部屋に溜まっていく。
無意味に箱ばかり作っていた。
予備校でしか勉強していない。
受験にもやる気がない。
俺を受験に釣った餌はもう誰かに食われただろう。
「こんなに箱ばっか作ってどうすんだよ?」
俺の部屋にきたコウは俺の作品を眺めて聞いてくる。
どうするつもりもなかったりする。
「贈り物にどうぞ。1個千円」
俺はコウに売りつけてやろうかと言ってみながら、買ってきた飴の袋を開ける。
「100円なら買ってやってもいい。ピアス入れるのにちょうどよさそう。こっちの大きさのほうが…って、これ重…。重厚な造りですな、隆太さん」
木箱だけで重くなるはずがない。
「中身見ろよ。工具入れになってる」
俺は目の前に4つくらい箱を並べて、飴を味ごとにわけて入れていく。
いちごの飴ばかり減ってる。
じゃなかったらレモン。
初めて千香とキスしたとき、千香はレモンの飴を舐めていた。
もう半年以上前。
「職人だなぁ。受験は?」
「たぶん受かるだろ。最近やってないだけでずっと勉強ばっかりしてたし」
成績表だけにするなら1学期はオール5をいただいた。
点数にするなら90点以上しかテストでとってない。
模試にするなら判定は最高ランク。
全力で千香の出した餌に釣られてみたらこうなった。
これで受からなかったら、俺が本番に弱すぎるっていう話。
落ちてもいいけど。
俺を釣る餌ももうない。
受かる意味が俺にはない。
コウは箱をひたすら物色してくれて、いらないものを見つけてくれた。
「お。ラブレター?」
そんなものをもらえてもいる。
封を開けずに箱に閉じ込めてやった。
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