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俺が大工になりたかったかもしれない。
じいちゃんに色々技を教えてもらいたかった。
大学出たら…なろうかな。
じいちゃん、それまで元気でいてくれるかな。
給料安くてもいいし、好きなことしたい。
物を作るのは好きだし、なりたいもの見つけたかもしれない。
女のことはもうおいといて。
…なんて思っても、また千香のことを考えて。
約束なんてもうないのに、受験のことを考える。
願書は出した。
受験をブチればなにもしなくても不合格。
合格しても通わなければそれまで。
俺は溜め息をついて、机の上の飴に手を伸ばす。
レモンの飴。
未練たらたら。
男らしくなさすぎる自分が嫌になる。
俺は千香を待ってるわけじゃない。
今のこれはただ動けないだけ。
12月の始め。
もう冬の空気。
寒くなってきた。
日が沈むのも早い。
俺は千香との待ち合わせの公園で煙草を一服。
「先輩」
声をかけられた気がしてそっちを見ると、あのここで彼氏と待ち合わせしていた女が、公園の入り口から俺に親しげに手を振る。
隣にいる男は彼氏とは違う男だと思う。
「新しい彼氏?」
「そうですよ。あれとは別れちゃいました。また今度ゆっくり話しましょうね。先輩は私の二番目彼氏さんですから」
「いつからだよっ」
俺は笑って言って、女も笑って、また手を振って隣の男と楽しそうに歩いていく。
会わないと思ったら、そういうことになっていたらしい。
何か俺だけ置いていかれている気分。
俺だけ同じ場所から動けないでいる。
動きたいと思うのに、自分の思うままに自分を操れない。
相手も俺を操ってくれない。
誰かに動かしてもらいたい。
誰かに言われても動けないのはわかってるけど。
俺の携帯が着信を告げて、溜め息をつきながら見てみると山瀬の彼女だった。
何気に親しくしてしまっている。
こっちもとうとう別れたかと思って電話に出てみる。
「はい」
『…先輩』
なんか甘えて泣いてる声が聞こえた。
予想が当たった?
「どうした?」
『…かまってくんない。山瀬先輩、とられちゃう』
ぼろぼろ泣いたような声で言ってくる。
まだ別れていないらしい。
それでも山瀬は彼女よりも千香を本命にしてきているらしい。
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