Beats me

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「…とらないよ」 俺は目の裏に千香の在り方を描いて言ってやった。 『なんで言い切れるんですか?とろうとしてるのに…』 「してないよ」 俺はこれこそ破壊になるかなと思って少し躊躇う。 躊躇ったけど、別に俺は山瀬の連れでもないし、千香の友達でもない。 耳に聞こえる泣き声を止めてやりたいと思う。 俺は女に泣かれると弱いらしい。 「美恵ちゃん、千香と話したことある?」 『ないです』 「なら、千香に山瀬とつきあってる、山瀬の彼女は自分だ、とるなって言ってやったらいいよ」 『…若林先輩は山瀬先輩のこと好きじゃないんですか?』 山瀬の彼女は少し泣き止んで、考えて、鼻をすすりながら聞く。 …泣き止んだ。 よかった。 「俺は千香じゃないから知らない。千香はだけど取り合ってまで山瀬とつきあう気はないと思う。無責任に勝手に言ってるだけだから、美恵ちゃんが本当にそうか確認してみて」 『……若林先輩は先輩のこと好きなんですか?』 あまりに容赦ない質問に俺は少し笑った。 自嘲だ。 そんな自意識過剰にも思えることをまだ思ってるなんて人には言えない。 千香は俺を…なんて、まだ思ってる自分が情けない。 「だからそんなの知らないって。千香しか知らない。それも美恵ちゃんが聞き出してくれる?」 『…先輩、ずっと片思い?』 「だからー、俺のことはいいの」 俺はできるだけ明るく言って、どうやら泣き止んでくれたらしいし、どういう話題を振っていくか考える。 『……山瀬先輩、どうせ二股だし。私、先輩の二番目になってもいいよ?』 どうして俺はこう下手な慰めを年下にいただいてしまうのか。 哀れすぎるのかもしれない。 俺の気の持ち方次第なのに。 「俺、山瀬よりモテるよ?気にしてくれなくて大丈夫」 『先輩が慰めてくれるから、私も先輩を慰めてあげたくなったんです。慰められて?先輩』 「その気持ちだけで十分慰められた。ありがとう」 『……抱っこ』 「美恵ちゃん、俺に甘えてる?」 『甘えてます。ぎゅーって抱っこ。私もぎゅーって先輩を抱っこしてあげます』 なんかかわいい子。 俺は笑って、そんなふうに誰か他の女に抱きしめられれば、甘えた気持ちで千香を忘れていけるのかなと考える。
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