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自分の気持ちを押しつけるんじゃなくて。
癒そうと抱きしめてくれるなら。
俺はそこに甘えて癒されるかもしれない。
俺を慰めようとするくらいに山瀬の彼女は元気になって、あとは俺の話題から話題を逸らして、電話代大丈夫?って話で電話を切った。
千香の寄りかかる腕を俺は奪おうとしている。
その彼女をけしかけて、千香から山瀬にさよならを言わせようとしている。
そんなことをしても、山瀬がいつか言ったように、千香は他の腕を探すだけだろう。
俺がその腕になりたくても千香は寄りかかってくれないだろう。
ただの破壊。
山瀬が千香に片寄っていて、彼女が千香に言ったからフラれたとわかれば、彼女は山瀬にフラれるかもしれない。
片寄っていればフラれる。そこは確実のようにも思う。
破壊だ。
ごめんな、美恵ちゃん。
そこからあとのことを紡ぐのは美恵ちゃん次第。
山瀬は千香にフラれる。
その山瀬を慰めてやればいい。
そばにいたかったらいればいい。
山瀬ならよりを戻そうとするかもしれない。
コウとは違うから。
俺はまた煙草に火をつけて、暗い公園で一服。
誰に抱きしめてもらおう?
…千香がいい。
…馬鹿か、俺は。
繰り返すばかりの諦めの悪い俺の感情。
冬休み前、コウたちと帰ろうとしていたら、窓の外に千香と山瀬の彼女が見えた。
あの電話のあとの報告はなかったし、今あれがその行動に移しているような気がして、俺は連れに先に帰ってもらって、二人のところへ向かった。
俺がその場所についたときにはどっちもそこからいなくなっていて、探すように歩くと千香を見つけた。
水道の蛇口を捻って足を洗っていた。
会話は聞こえなかったけど、俺の予想が正しければ、山瀬の彼女は千香に言ったはずだ。
泣きも笑いもしないで、千香はクールな横顔。
泣けばいいのに。
俺の妄想の中の千香と違う千香になってくれればいいのに。
俺は少し、千香がどういうやつか知りすぎてしまっているかもしれない。
それだけ…千香しか見えていなかった。
「千香」
声をかけると千香は顔を上げて俺を見て、俺は千香に近づく。
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