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「隆太、ハンドタオル持ってる?」
聞かれてポケットを探ってみるとハンドタオルが出てきた。
俺が自分で入れてるわけじゃなかったりする。
俺の鞄の中にあるティッシュも絆創膏もソーイングセットも自分で入れていない。
親がいつの間にか勝手に入れている。
見られたら恥ずかしいと思うようなエロ系なものも、親は性教育のつもりか父親が自分のものを俺のものだと言い張るためか、勝手に部屋に置いていく。
俺は千香にハンドタオルを渡して、千香はハンドタオルで濡れた足を拭く。
片足で立ってやりにくそうにも見えて。
「貸して」
俺は千香からハンドタオルを受け取って、そのそばに屈んで拭いてやる。
膝に擦りむいた傷。
これを洗っていたらしい。
「どうした?これ」
「転んだ」
「受験生に禁句使うな」
「次は落ちてみる?」
滑った、転んだ、落ちた。
全部言いやがる。
「俺に?」
わざとそっちに聞いてやった。
千香は何も答えなかった。
素で無視された。
声をかけてくるから友達ノリで話していたのに。
「…無視って一番ひどくないか?」
俺が少し頬を膨らませて言うと千香は笑った。
そのかわいい笑顔、久しぶりに見た。
俺に向けた笑顔。
もうどれくらいぶりだろう?
…友達なら…なれるのかな。
俺が押したりしなければ、こんな感じで続いていくんだろうか?
俺は…それでいいのか?
千香はスカートのポケットから携帯を取り出す。
携帯は震えて音を立てている。
着信だろう。
千香はすぐに出ることなく、その画面を見ていた。
千香が電話に出ないまま、一度着信は切れて、またかかってくる。
何回も千香が出るまでかかってきそうだ。
相手が誰かは俺はわからない。
千香の足を拭き終わると立ち上がって、千香を黙って眺める。
千香は涙を目に浮かせて拭う。
千香の手の中の携帯を横から覗き見ると山瀬の名前。
…もう山瀬に別れ話でもしたのか。
さっきその彼女と話したばかりのはずなのに。
いつまでも千香が電話に出ないから、俺は千香の携帯を手にして通話を押して、その電話に出た。
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