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『千香っ、なんですぐに電話出てくれなかったんだよっ?さよならってなんだよっ?冗談だろ?』
電話に出るなり、山瀬のそんな声が聞こえてきた。
早すぎる。
そうなるのはわかっていたけど早すぎる。
『……ごめん。千香、さよならって言うのはやめて。俺はまだ千香とつきあっていたい。今は友達のままでも、千香の気持ちが俺に向くまで、俺、待ってるから。
千香、好きだよ。ごめん。別れたくない』
山瀬は怒ったのを言い直すように優しく千香に語りかけるように口説くように言った。
聞いてるのは俺だけど。
俺はちらっと千香を見る。
千香の気持ちは…どこにある?
俺?山瀬?
それともどこにもない?
さっき山瀬の着信に涙を拭っていた。
山瀬…?
「……彼女公認の二股で彼女じゃないほうに気持ちを寄せすぎた…ってところ?」
俺は山瀬への嫉妬も入れて聞いてやった。
『って、おいっ。加藤かよっ!なんで加藤っ?おまえが千香の携帯弄ったのかっ?千香出せ、千香っ。俺の告白、なんでおまえに聞かせなきゃならねぇんだよっ』
なんて耳には山瀬の声。
千香は俺から携帯を奪い返そうと手を伸ばしてくる。
俺はそれを避ける。
「返してっ」
千香はどこか必死になってくれて、俺の胸の中の淋しさが膨らむ。
『美恵より千香に惚れたっ。悪かったなっ』
そんな山瀬の声が電話の向こうから聞こえる。
俺は山瀬に言葉を返すことなく、通話を切ってから千香に携帯を返してやった。
千香は携帯を手にして、かけ直すべきか悩んだ様子を見せる。
もういいだろ?俺。
まだ懲りない?
コウが言っていただろ?
相手の幸せを望んで離れて、新しい女とつきあったほうが楽しい。
ここに縛られていてどうする?
さよならって俺が聞きたいんだろ?
「……なぁ、千香。寄りかかるだけの相手、なんで俺じゃダメだった?」
最後にはおまえの言葉で俺を切り裂いて。
下手な嘘はいらない。
他の男がいいからって、そんな言葉でいい。
俺を諦めさせるような言葉が欲しい。
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