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「つきあいあるよ。紹介するの?」
「俺も高校の頃の連れを連れてくるから飲みにいこうか?」
「加藤くん?」
聞いてみると、晃佑はあからさまに嫌そうな顔を見せた。
「おまえ、隆太覚えてたのか?だから、あの時話してた?…いや、だけど…」
晃佑は納得できないといった顔になって悩む。
百面相している。
ちょっとおもしろい。
「別れてから一回会った。覚えてなかったけど、加藤くんが覚えてくれていたみたい」
「……忘れてろと言いたい。あいつは呼ばない。おまえが狙われるから」
「加藤くんはどうして晃佑の彼女や元カノ狙うの?」
「……それ、俺の古傷えぐりたいってこと?」
傷になっているらしい。
えぐってみたい…。
その右耳の赤いピアスの元カノとか。
イエスもノーも言えずに、私はしゃくしゃくと野菜を食べる。
菜食主義ではないのだけど、あまり食べたくないときは野菜を食べている気がする。
「…昔、隆太の彼女が俺にアピってきて、そのまま手をつけて…、その彼女が俺に乗り換えてから始まってる」
「やっぱり女好き」
「女好きというよりも、女によく騙されるほうかも…。続きを言えば、その彼女は俺とつきあって1週間もたたずにまた乗り換えた、となる。…楽しいか?この話」
晃佑は思いきり楽しくなさそうだ。
「ピアスの元カノは?」
「これは…、隆太に奪われたほうだ。あいつは奪ってないって言うけど」
晃佑は右耳にふれていたかと思うと、そのピアスをはずした。
「俺、つきあった数は多いけど、本当にフラれてばっかりなんだよな。終わりの言葉はたいてい同じ」
晃佑ははずしたピアスを眺めながら、呟くように言う。
「何を言われるの?」
「……おまえも同じこと思ったことあるだろって思うから言わない。…別にいいけど。モテるし、すぐに次の彼女見つけられるし」
じゃあ、今、どうして彼女いないの?
聞きたくなったけど、そこに欲しい言葉があるとは限らないし、やめておいた。
それに…今の私には、晃佑の服しか握れない。
ここにいたい。好き。
何度も思っても、無意識の拒絶をしてしまいそうで…。
迷惑をかけてしまいそうで…。
言えない。
ここにいたいって言えない。
彼女、つくらないでって言えない。
私を好きに…なってほしい。
………言えない。
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