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言えないことが多すぎて嫌になる。
私、また同じだ。
晃佑の欲しがってくれる気持ちをまっすぐに伝えてあげられない。
言えないのは…。
私は自分の顔や体の傷を思い出して溜め息が出そうになる。
「私は晃佑にフラれたと思うけど?」
それを言ってみると、晃佑は手にしていたピアスを私に投げた。
小さなピアスは私の体に当たり、私は転がったそれを拾う。
「おまえが振ったんだろ。別れてもいいっていう態度で俺とつきあっていたのはおまえだろ?……もういいって。それ、もう掘り返さないでおこ?」
晃佑は話をきるように食事の続きをとる。
やっぱり…私が傷つけていたらしい。
別れてもいいと思っていた。
だけど…。
「振ってない。晃佑が言い出したんでしょ」
「だからもういいって。…俺が振ったことにしてくれていい。
寝る場所どうしようか?ベッド使う?」
話題をかえやがる。
私は晃佑の袖を引っ張る。
どうして私はたった一言が言えないんだろう?
今は…でも…言えない。
晃佑に抱きつくこともできそうにないのに、それでも好きなんて信じてもらえそうにない。
「一緒に寝ないから安心しろって。こたつ出して寝るか。布団買ってこないと」
違うし。
そういうこと言いたいんじゃないし。
「…私が居候してるのに」
「俺が連れてきた。風呂入ったら薬塗ってやるから、さっさと食え」
薬…。
もらった塗り薬と使用箇所を思い出して、私は頭に手を当てた。
「禿げを見ないでっ」
「すぐはえるって。そういえばずっとパーカー被りっぱなしで見てないけど、どんな感じにしたんだ?」
晃佑は私の頭を顔を隠すフードをはずしてこようとして。
私は逃げて。
逃げまくったけど、晃佑に服を引っ張られて脱げた。
「…頭、ちっちゃ。長いの好きなのに」
晃佑の手は私の頭に髪に軽くふれる。
私は晃佑からもらった帽子を出して被ろうとして、晃佑の指先が私の頭皮を優しく撫でることに気がついて。
帽子を被ることなく、そのままにした。
優しい手。
視線をあげて晃佑の顔を見ると、晃佑は私に優しげに笑ってみせてくれる。
私、顔が腫れてお化けみたいな顔になっているはずなのに。
本当に求めたら…晃佑は応えてくれる人なのだろう。
私が求めなかっただけ。
優しすぎる人。
私だけに優しくしていてくれたらいいのに。
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