Breezy

16/30
前へ
/606ページ
次へ
卒業してから1年。 季節は春。 駅に向かおうとしていた千香と思いきり正面から顔を見合わせた。 俺は目を逸らして千香の横を通りすぎた。 通りすぎて、しばらく歩いて振り返ってしまう。 あれだけ惚れた相手。 この1年で恋愛をいくつかして、今かわいい彼女もいるけど。 懐かしい痛みを思い出して振り返ってしまう。 千香はまっすぐに駅に入っていくことなく、近くのベンチに腰をおろした。 その顔は俯いていてよく見えない。 あたりは終電間近で人もまばら。 俺は家に向かって歩き出せずに、ただ千香を見ていた。 会いたかったと言えば嘘になる。 どちらかと言えば、このまま一生、顔も見たくなかったかもしれない。 今が楽しくやっているから、あの頃の悩みまくった自分を振り返って余計に思う。 だけど、その姿をどうしても見てしまう。 一度惚れた気持ちはいつまでも残ってしまうのだろうか。 声をかけようかとも迷って、声をかけられずにいたら千香に声をかけていく男が二人。 ナンパだろう。 そんなかわいいのに、こんな夜に一人でそんなところにいれば、ナンパされて当たり前。 千香はしつこく声をかけられて、腕を引かれて立ち上がった。 俺の頬がひくついた。 どこまでもムカつく、イラつく。 俺の彼女でもないし? 1年ぶりに見ただけだし? 放っておけとでも言われそうではあるけど。 ムカつく。 俺の目の前でナンパについていこうとするその軽さがムカつく。 俺にはあんな態度で頑なに拒んで、他には軽くつきあうのがムカつく。 俺は3人が歩き出す前にそっちに早足で戻って、千香の腕を掴んで引き留めた。 「悪いけど、こいつ、俺と待ち合わせ。ちょっと酔ってるみたい」 俺は千香を背中に隠して、千香をナンパしてきた男たちにそんな嘘をついて追い払う。 男たちは争いあうつもりもなく、軽く声をかけただけだったようで、俺に少し謝って逃げるように離れていく。 俺はそれを見送ると、背中に隠した千香を振り返って睨んでやる。 「……なんで睨むの?」 久しぶりといった明るい挨拶もなく、千香は俺の顔を見上げて聞く。 明るい挨拶なんてされてもキレそうだけど。 俺はこの存在自体ムカつくかもしれない。
/606ページ

最初のコメントを投稿しよう!

584人が本棚に入れています
本棚に追加