Breezy

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「……千香の服、洗っていただけ」 別に裸を見たくてここにいたわけじゃないと弁解しておく。 「……着るものないんですけど。帰れないんですけど」 「終電出てるからどうせ帰らないだろ。しばらく下着とバスタオルでいれば?朝には乾く」 俺は鏡越しに千香を見て言い、千香は不満そうに俺を振り返る。 視線の行き場がない。 千香の体をじろじろ見まくりそうな自分を隠すように視線を逸らす。 千香の服を洗って干して、ラブホ泊まり。 大きなベッドはあるけど、大きなテレビを見ているだけ。 本当にバスタオルと下着だけの千香が隣にいるから、俺は落ち着かない。 意識をしないようにテレビを見ていると千香が笑って、俺も笑って。 俺と千香は顔を見合わせて、千香は俺から距離をとるように離れる。 俺の下心は透けて見えているのかもしれない。 何回もフラれていながら、あんなことまでして、更にあわよくば…を考える俺は馬鹿かもしれない。 いや、馬鹿だ。 気まずい空気もあるのにそれしか頭にないのかと千香に言われそうだ。 「……風呂入ってくる」 俺は頭を冷やそうとバスタオルを手にしてバスルームへ。 全部脱いで頭からシャワー浴びて、息をついて。 ドキドキしまくってる自分を落ち着かせる。 と、いきなり真っ暗になった。 外の明かりがついたり消えたりしていることから、千香が弄ったのがわかる。 「千香っ、電気っ。見えないっ!」 声をあげると千香はバスルームの電気をつけてくれた。 なんの嫌がらせだとドキドキしながら、体を洗って頭を洗って風呂場から出る。 少し落ち着いた。 部屋のほうは真っ暗で、テレビの中の笑い声だけが聞こえる。 体を拭いてパンツはいて自分の服を眺める。 千香が服を着ていればいつでも狼になれる状態から抜け出せるかもしれない。 バスタオルを肩にかけて服を手にして部屋に戻ると、千香はベッドの布団の中。 俺はテレビのリモコンを探して、ベッドの上に転がるそれを拾ってテレビを消す。 千香の様子を見るように顔を覗き込んでみる。 目を閉じてる。 「……千香、寝てる?」 声をかけると千香は目を開けて俺を見る。 「……なんで服着てないの?」 「…俺の服、着ておく?」 「大きすぎるよ」 「上だけとかでも。…俺の目に毒だから」 見てはいけないもの。 目の前に晒されているから悪い。 …見たいけど。
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